スーパーマーケットのレジ係は、長時間の立ち仕事に加え、商品スキャンやレジ操作などの反復動作により筋骨格系障害(WMSD: Work-Related Musculoskeletal Disorders)を発症しやすい職業の一つです。しかし、レジ業務のどの動作がどの部位にどれだけの負荷をかけているかを定量的に計測した研究は多くありません。ポルトガルの研究チームは、XSensモーションキャプチャーシステムを用いてレジ係の全身運動データを取得し、RULA法・REBA法による人間工学的評価を行いました。本記事では、この研究結果をもとに、レジ業務の身体負荷の実態と改善の方向性を解説します。

この記事でわかること

  • モーションキャプチャーを使ったレジ作業の姿勢計測手法
  • RULA・REBA評価によるレジ業務の身体負荷スコア
  • 特に負荷の高い作業動作(スキャン、レシート交換など)の特定
  • レジカウンター設計の改善提案

研究の背景|レジ作業の「見えない負担」を可視化する

レジ係のWMSDリスクは複数の研究で指摘されてきましたが、その多くは質問票調査に基づくものであり、実際の作業中にどの関節がどの角度まで動き、どれだけの負荷がかかっているかを直接計測した研究は限られていました。

人間工学的評価手法であるRULA(Rapid Upper Limb Assessment)とREBA(Rapid Entire Body Assessment)は、作業姿勢のリスクを数値化する国際的な標準手法です。しかし従来は観察者の目視評価に頼っていたため、評価のばらつきが課題でした。本研究では、モーションキャプチャーによる客観的なデータ取得でこの課題を克服しています。

研究の概要

研究の目的

レジ業務の各マイクロタスク(個別作業動作)における身体負荷を、モーションキャプチャーとRULA・REBA評価を組み合わせて定量化すること。

対象と方法

ポルトガル北部のスーパーマーケットに勤務する5名の女性レジ係(19歳〜61歳、異なる身長・利き手)を対象に以下の計測を実施しました。

  • 計測機器: XSens MVNモーションキャプチャーシステム(全身17センサー)
  • 評価手法: RULA法(上肢中心)およびREBA法(全身)
  • 計測対象: 19種類のマイクロタスク(商品スキャン、レシート紙の交換、現金処理、清掃作業、重量商品の持ち上げ等)
  • 環境条件: 2種類のレジカウンターデザインで比較

主な研究結果

商品スキャンでRULAスコア最高値「7」(即時改善が必要)

研究結果の中で最も注目されるのは、商品スキャン作業のRULAスコアが7に達したことです。RULAの7段階評価で最高値の7は「即時に調査と改善が必要」なリスクレベルを意味します。

スキャナーを使用する際の手首の回転(回外・回内)と腕の持ち上げ動作が頻繁に発生し、特に以下の条件で負荷が増大しました。

  • 重い商品(5kg以上)のスキャン: 飲料パックやペットフードなどの持ち上げ時
  • スキャナーと商品の位置が離れている場合: 身体のねじれ・前傾が発生
  • 身長とカウンター高さのミスマッチ: 低身長者は肩の挙上、高身長者は前傾が増加

レシート紙交換でREBAスコア最大「11」

レシートプリンターの紙を交換する作業では、REBAスコアが最大11に達しました。REBA評価で11以上は「非常にリスクが高い」レベルに相当します。

この作業ではレジ台下部のプリンターにアクセスするため、深いしゃがみ込みや体幹のねじれが発生し、腰部と膝への急性的な負荷がかかることが明らかになりました。

立位・座位の差よりもカウンター設計の影響が大きい

本研究の重要な発見の一つは、立位と座位の違いだけでは身体負荷に大きな差が見られなかった点です。どちらの姿勢でも、重い商品の取り扱いやスキャナーへのリーチ動作では高いRULAスコアが記録されました。

これは、単に「座れば楽になる」という単純な結論ではなく、レジカウンターの設計そのものが身体負荷の主因であることを示しています。スキャナーの位置、商品の導線、プリンターの配置といった作業環境の設計改善が不可欠です。

この研究からわかること|実務への示唆

レジカウンター設計の改善ポイント

  1. スキャナーの位置最適化: 手首の回転角度と腕の挙上角度を最小化する配置に変更
  2. カウンター高さの調整機構: 作業者の身長に応じて高さを変えられる可変式カウンターの導入
  3. レシートプリンターの配置変更: しゃがみ込み動作を不要にする位置(腰〜胸の高さ)への移設
  4. 重量商品の動線設計: 5kg以上の商品を持ち上げずにスキャンできるスライド式の仕組み

姿勢管理と休憩制度

  • シット・スタンドの切り替え: 座位と立位を自由に切り替えられるスツールの配置
  • マイクロブレイク: 30分ごとの短時間休憩で手首・肩のストレッチを実施
  • 作業ローテーション: レジ業務と品出し業務のローテーションにより、同一姿勢の持続を回避

研究の限界と今後の展望

本研究の対象は5名と少数であり、統計的一般化には限界があります。しかし、モーションキャプチャーを用いた詳細な動作分析は、従来の目視評価では見落とされていた微細な姿勢変化や関節角度の問題を明らかにした点で大きな意義があります。

今後は、より大規模なサンプルでの検証や、カウンター設計の改善前後での介入研究が期待されます。また、日本のレジ環境は海外と異なる点(袋詰め、ポイントカード処理、セルフレジ併設など)もあるため、国内環境に特化した研究も必要です。

まとめ

モーションキャプチャーを用いたレジ係の身体負荷計測により、商品スキャンのRULAスコアが最高値「7」に達し、レシート交換作業のREBAスコアも「11」と非常に高いリスクレベルであることが明らかになりました。立位・座位の切り替えだけでは不十分であり、レジカウンターの設計そのものの改善が身体負荷軽減のカギを握っています。

参考文献

  1. Pombeiro, A. et al., "Biomechanical Analysis of Supermarket Cashier Activity Using Motion Capture", Inventions, 10(1), 21, 2025. DOI: 10.3390/inventions10010021
  2. McAtamney L, Corlett EN, "RULA: a survey method for the investigation of work-related upper limb disorders," Applied Ergonomics, 24(2), 91-99, 1993. DOI: 10.1016/0003-6870(93)90080-S
  3. Hignett S, McAtamney L, "Rapid Entire Body Assessment (REBA)," Applied Ergonomics, 31(2), 201-205, 2000. DOI: 10.1016/S0003-6870(99)00039-3. PMID: 10711982