食品製造業は、労働力不足、高齢化、人手作業の負担増加という三重の課題に直面しています。こうした中、2025年6月に開催される「FOOMA JAPAN 2025(国際食品工業展)」は、食品工場の未来を展望するうえで欠かせないイベントです。一般社団法人 日本食品機械工業会が主催する本展示会は、世界最大級の食品製造総合展として、自動化設備から作業環境改善まで幅広いソリューションが一堂に会します。単なる製品展示にとどまらず、食品工場が抱える現場課題への解決策が具体的に提示される場として、安全衛生担当者や現場管理者にとって見逃せない機会です。本記事では、FOOMA JAPAN 2025の注目トレンドを3つの切り口で解説し、食品工場の職場環境がどう変わろうとしているのかを展望します。

この記事でわかること

  • FOOMA JAPAN 2025で注目される3つの職場環境改善トレンド
  • 食品工場の現場が直面する複合的課題と改善ニーズの全体像
  • 「作業者体験(Worker Experience)」という新しいアプローチの具体的な内容
  • 食品工場の職場環境改善ニーズと期待される効果の対応関係

トレンドの背景|食品工場の現場が直面する課題

食品工場の製造ラインでは、以下のような複合的な課題が存在しています。

長時間の立ち仕事による足腰の負担は、食品加工、包装、検品といった多くの工程に共通する課題です。厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」でも、立位姿勢の持続が腰痛のリスク因子として挙げられており、特に高齢作業者にとっては疲労と離職の大きな要因となっています。

同一動作の繰り返しによる筋骨格系障害(MSDs: Musculoskeletal Disorders)も深刻です。包装ラインでの反復作業は肩・肘・手首への慢性的な負担を生み出し、厚生労働省の「労働災害統計」によると、食料品製造業の筋骨格系障害の発生率は製造業全体の平均を上回る水準にあります。

加えて、作業員の高齢化と技能継承の困難人材確保と定着率の低さが構造的な問題として存在します。若年層から敬遠されやすい業種でもあり、自動化技術と人間中心設計のバランスをとりながら、作業者の負担を軽減しつつ生産効率を高める職場づくりが強く求められています。

FOOMA JAPAN 2025で注目すべき3つのトレンド

トレンド1:人間工学に基づく作業支援ツールの進化

食品工場向けの作業支援ツールは、近年大きな進化を遂げています。FOOMA JAPAN 2025でも、以下のカテゴリの製品・ソリューションが出展されることが期待されます。

アシストスーツ・パワードスーツ: 腰部の負荷を軽減するアシストスーツは、重量物の取り扱いが多い食品工場で導入が進んでいます。近年はモーター駆動型に加え、バネやゴムの弾性を活用した軽量・非動力型のモデルも登場しており、食品衛生区域での使用に適した製品が増えています。

立ち作業補助ツール: 完全な着座が難しい製造ラインにおいて、立位姿勢のまま体重の一部を支えるスタンディングサポートが注目されています。立ち椅子やレストバーなど、食品衛生基準(洗浄・消毒が容易な素材)に適合した製品が各社から提案されています。

疲労軽減マット: 耐油・耐水・抗菌性能を備えた食品工場専用の疲労軽減マットは、最も導入しやすい改善策の一つです。足裏・膝・腰への衝撃を吸収し、長時間立位作業の疲労を軽減する効果が報告されています。

トレンド2:スマートファクトリーと働き方改革の融合

DX(デジタルトランスフォーメーション)技術の食品工場への導入は、「省人化」だけでなく「作業者の負担軽減」という視点でも進展しています。

IoTセンサーによる作業モニタリング: 作業者の動線、姿勢、作業時間をリアルタイムで計測し、負荷の偏りや過度な反復動作を検知するシステムが実用化されつつあります。データに基づいて作業ローテーションを最適化することで、特定の作業者への負担集中を防ぐことが可能になります。

AIによるライン最適化: 生産計画と人員配置をAIが最適化し、作業者のスキルレベルや体力に応じたタスク割当を行うシステムも登場しています。熟練者と非熟練者を適切に組み合わせることで、品質の安定と技能伝承を同時に実現するアプローチです。

ウェアラブルデバイスによるバイタル管理: 心拍数、体温、活動量などをリアルタイムで計測するウェアラブルデバイスは、熱中症予防や過労防止に活用されています。食品工場の高温・低温環境では、作業者の体調変化を早期に検知できることが安全管理上重要です。

トレンド3:衛生性と安全性の両立を図る職場設計

食品工場の職場設計は、HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Points)対応を前提としつつ、作業者の安全と快適性を同時に確保する方向へ進化しています。

洗浄性の高い機器設計: ステンレス製の丸みを帯びたフレーム、工具なしで分解・洗浄できる構造など、衛生管理と作業効率を両立させた機器設計が標準化しつつあります。清掃のしやすさは、作業者の負担軽減にも直結します。

ゾーニング設計の最適化: 清潔区域と準清潔区域の動線分離を維持しつつ、作業者の移動距離を最小化するレイアウト設計が注目されています。不必要な移動の削減は、疲労の軽減と生産効率の向上の両方に寄与します。

感染症対策を意識した環境設計: コロナ禍を経て、換気システムの強化、非接触型の操作パネル、パーソナルスペースを確保した作業配置など、感染症リスクを低減する設計が定着しつつあります。

新たな視点|作業者体験(Worker Experience)の最適化

近年の食品工場における職場改善で注目されているのが、「作業者体験(Worker Experience)」という考え方です。顧客体験(Customer Experience)やユーザー体験(User Experience)の概念を製造現場に応用したもので、生産性や効率だけでなく、作業者の身体的・心理的な快適性と働きがいを設計の中心に据えるアプローチです。

具体的には以下のような観点が含まれます。

感覚環境の最適化: 作業空間の温湿度、照明の色温度と照度、騒音レベルなど、五感に作用する環境要因をコントロールすることで、作業者のストレスを軽減し、集中力と快適性を向上させます。

行動データに基づく動線改善: 作業者の動線データを分析し、無駄な移動や無理な姿勢が発生するポイントを特定・改善します。IoT技術との組み合わせにより、データドリブンな改善が可能になっています。

柔軟な勤務形態への対応: パートタイムやシフト勤務が多い食品工場において、多様な勤務形態の作業者がストレスなく業務に入れる作業環境の標準化が求められています。作業手順のデジタル化やスキルマトリクスの可視化がその基盤となります。

こうした取り組みは、エンゲージメントの向上、定着率の改善、さらには企業ブランディングにも好影響を及ぼすと考えられています。

食品工場の職場改善ニーズと期待される効果

改善ニーズ課題の背景期待される効果
足腰への負担軽減長時間の立ち作業作業者の疲労軽減、腰痛予防
単純作業の自動化筋骨格系障害の予防作業者の健康維持、生産性向上
衛生性の高い作業環境の整備異物混入リスク、厳格な衛生基準品質保持、監査対応の効率化
スキルレスでも扱える機器設計高齢化・人材不足、技能継承の困難即戦力化、教育負担の軽減
作業者体験の向上離職率の高さ、職場満足度の低下エンゲージメント向上、採用力強化

今後の展望

FOOMA JAPAN 2025は、食品製造業界の技術革新を一望できるプラットフォームであると同時に、「人が主役となる」職場づくりの方向性を確認する場でもあります。

今後の食品工場の職場環境改善は、以下の3つの軸で進展すると予想されます。

  1. 自動化と人間中心設計の融合: 完全自動化が難しい工程において、人の負担を最小化する「協働型」のソリューションが主流に
  2. データドリブンな改善: IoTとAIの活用により、勘と経験に頼らない科学的な職場改善が可能に
  3. 多様性に対応した職場設計: 年齢、性別、国籍を問わず、誰もが安全に働ける「インクルーシブな職場」の実現

機械化や自動化のみに頼らず、作業者の身体的・心理的な快適性を重視した改善こそが、人材確保が難しい食品製造業において持続可能な成長の鍵となるでしょう。FOOMAで出会う最新技術や事例を、自社の課題に照らし合わせて柔軟に取り入れることが、未来型の食品工場への第一歩です。

まとめ

FOOMA JAPAN 2025で注目すべき3つのトレンド――人間工学に基づく作業支援ツールの進化、スマートファクトリーと働き方改革の融合、衛生性と安全性を両立する職場設計――は、いずれも「人」を中心に据えた改善の方向性を示しています。「作業者体験(Worker Experience)」という新たな視点を加えることで、生産性と働きがいの両立を目指す食品工場の姿が見えてきます。

参考文献

  1. 一般社団法人 日本食品機械工業会, 「FOOMA JAPAN 2025 開催概要」. https://www.foomajapan.jp/
  2. 厚生労働省, 「職場における腰痛予防対策指針」, 2013年改訂. https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000034et4-att/2r98520000034pjn_1.pdf
  3. 厚生労働省, 「令和5年 労働災害発生状況」, 2024年5月27日公表. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40395.html
  4. 経済産業省・ロボット革命イニシアティブ協議会(IoTによる製造ビジネス変革WG), 「スマートファクトリーロードマップ 〜第4次産業革命に対応したモノづくりの将来像〜」, 2017年5月. https://www.meti.go.jp/policy/monozukuri/gijutu/smart-factory-roadmap.pdf
  5. 農林水産省, 「食品産業の働き方改革検討会報告書」, 2020年6月. https://www.maff.go.jp/j/press/shokusan/kikaku/200612.html