食品製造の現場では、1日8時間以上の立ち作業が珍しくありません。検品、盛り付け、包装、仕分け――いずれの工程も立位での作業が基本であり、腰痛や足のむくみ、膝の痛みに悩む作業者は少なくありません。しかし、衛生管理の制約から椅子を置くことが難しく、「立ちっぱなしは仕方がない」と諦められてきました。
こうした状況に変化の兆しを見せたのが、2025年6月に開催されたFOOMA JAPAN 2025(国際食品工業展)です。本記事では、食品工場の立ち作業を取り巻く課題と、展示会で示された新しい解決アプローチを紹介します。
この記事でわかること
- 食品工場で立ち作業が避けられない理由と、その健康影響
- FOOMA JAPAN 2025で展示された立ち作業サポートの最新動向
- 食品製造現場に「体験型導入」が適している理由
- 自社の現場に合った対策を選ぶためのポイント
なぜ食品工場では「座れない」のか
衛生管理と作業効率の制約
食品工場が立ち作業を前提としている背景には、いくつかの構造的な理由があります。
衛生管理上の制約: 食品製造エリアでは異物混入防止が最優先事項です。椅子やクッションなどの繊維素材は異物混入リスクがあるとされ、クリーンエリアへの持ち込みが制限される場合があります。
作業動線の効率性: 食品工場のラインは、原料投入から包装・出荷まで一連の流れで設計されています。各工程間の移動が頻繁に発生するため、着席・起立の動作がボトルネックになりかねません。
設備スペースの制約: 包装機やベルトコンベアの周囲はスペースが限られており、椅子を設置する物理的な余裕がない場合が多くあります。
立ちっぱなしが身体に及ぼす影響
食品工場の立ち作業は、「動的立位」ではなく「静的立位」に分類されるケースが多い点に注意が必要です。検品や目視確認など、定位置で姿勢を固定した状態の作業は、歩き回る作業よりも身体への負荷が大きいことが研究で示されています。
静的立位が続くと、以下の健康影響が生じます。
- 下肢のむくみ: ふくらはぎの筋ポンプ作用が低下し、静脈還流が滞る
- 腰痛: 腰部の筋肉が持続的に緊張し、椎間板への圧力が増加する
- 足裏の痛み: 体重が足裏に集中し、足底筋膜に負荷がかかる
- 下肢静脈瘤のリスク: 長期間にわたる静的立位は、静脈弁の機能低下を引き起こす可能性がある
「座れない現場」での新しい選択肢
スタンディングレストという発想
「座る」か「立つ」かの二択ではなく、「立ったまま身体の負荷を軽減する」という第三の選択肢として注目されているのが「スタンディングレスト」の概念です。
スタンディングレストとは、立位姿勢を維持しながら体重の一部を分散させるサポートデバイスの総称です。膝下や腰部を支えるタイプ、足台を活用して片足ずつ負荷を切り替えるタイプなど、さまざまな形態があります。
この概念が食品工場で注目される理由は、以下の点にあります。
- 衛生管理と両立可能: 洗浄しやすい素材で設計されたものが登場している
- 作業動線を妨げない: 装着型であれば移動に支障がない
- 導入コストが比較的低い: 自動化設備と比較して初期投資が小さい
アシストスーツの進化
パワーアシストスーツも食品工場での導入が進んでいます。特に、重量物の持ち上げが伴う原料投入工程や、前かがみ姿勢が続く盛り付け工程では、腰部をサポートするタイプのアシストスーツが有効です。
近年のアシストスーツは軽量化が進み、1kg未満のモデルも登場しています。空気圧式や弾性バンド式など動力源を持たないパッシブ型は、充電の手間がなく、導入のハードルが低い点が特徴です。
体験型導入が食品業界に適している理由
「百聞は一見にしかず」のアプローチ
FOOMA JAPAN 2025では、作業負荷軽減製品のブースに共通していたのが「体験型展示」というアプローチでした。来場者が実際に製品を装着し、使用前後の身体負荷の違いを体感できる仕組みが好評を博しました。
この体験型アプローチが食品業界で特に効果的な理由は、以下の3点です。
1. 現場責任者の納得感: データや仕様書だけでは判断しにくい「装着感」や「作業のしやすさ」を、その場で確認できる
2. 作業者の受容性の確認: 新しい製品は、最終的に作業者が「使いたい」と思えるかどうかが定着の鍵。体験を通じて作業者の反応を直接確認できる
3. 工程との適合性の見極め: 自社の特定の作業工程に合うかどうか、実際の動作を想定しながら評価できる
導入の進め方
食品工場で新しい作業サポート製品を導入する際には、以下のステップが推奨されます。
- 課題の特定: どの工程で、どのような身体症状が多いかを調査(アンケート、ヒアリング)
- トライアル導入: 少数の製品を対象工程に試験的に導入し、2〜4週間使用
- 効果測定: 使用前後の疲労感、作業効率、不具合の発生率などを比較
- 作業者フィードバックの収集: 装着感、作業のしやすさ、改善要望をヒアリング
- 本格導入の判断: 効果が確認できた場合、対象工程を段階的に拡大
まとめ
食品工場の「立ちっぱなし問題」は、衛生管理や作業効率の制約から長く放置されてきました。しかし、スタンディングレストやアシストスーツなどの新しいソリューションの登場により、「座れなくても負荷は軽減できる」時代が到来しつつあります。FOOMA JAPAN 2025が示したように、体験型の導入アプローチは現場の納得感を高め、定着率の向上にもつながります。人手不足が深刻化する食品業界だからこそ、「人に優しい現場づくり」が、結果として人材の確保と生産性の向上をもたらすのです。
参考文献
- 一般社団法人日本食品機械工業会, 「FOOMA JAPAN 2025 開催概要」. https://www.foomajapan.jp/
- EU-OSHA OSHwiki, "Musculoskeletal disorders and prolonged static standing". https://oshwiki.osha.europa.eu/en/themes/musculoskeletal-disorders-and-prolonged-static-standing /関連レポート: EU-OSHA "Prolonged constrained standing at work", 2021年. https://osha.europa.eu/sites/default/files/Prolonged_constrained_standing_at_work.pdf
- Waters TR, Dick RB, "Evidence of Health Risks Associated with Prolonged Standing at Work and Intervention Effectiveness," Rehabilitation Nursing, 40(3), 148-165, 2015. DOI: 10.1002/rnj.166. PMID: 25041875
- 厚生労働省, 「職場における腰痛予防対策指針」, 2013年改訂. https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000034et4-att/2r98520000034pjn_1.pdf
- 農林水産省, 「食品製造業における労働力不足克服ビジョン」, 2019年7月公表. https://www.maff.go.jp/j/press/shokusan/seizo/190711.html /「食品産業をめぐる情勢」, 令和5年8月. https://www.maff.go.jp/j/shokusan/kikaku/jizoku/attach/pdf/index-13.pdf