2025年7月9日から11日まで幕張メッセで開催された「ものづくりワールド東京2025」は、35,000人超の来場者を集め、製造業の最前線を体感する場として大きな注目を集めました。DXや自動化技術が引き続き注目テーマとなる一方で、「作業者の身体的負担の軽減」や「健康経営の視点からの現場改善」が新たなキーワードとして浮上しました。
本記事では、ものづくりワールド東京2025を通じて見えた製造業の職場環境改善トレンドと、企業が取り組むべき具体的なアクションを解説します。
この記事でわかること
- 製造業の現場が抱える身体的負担の実態
- ものづくりワールド2025で注目された職場環境改善の技術動向
- プレゼンティーズム対策としての人間工学的アプローチ
- 段階的に始める現場改善のステップ
製造現場が直面する「見えない生産性損失」
身体的負担の蓄積
製造業の現場では、長時間の立ち作業や前かがみ姿勢が日常的に求められます。特に検査・組立工程では、定位置で姿勢を固定したまま微細な作業を行う場面が多く、腰・膝・肩への負担が蓄積しやすい環境です。
厚生労働省の「業務上疾病発生状況」によれば、製造業における腰痛等の筋骨格系障害は業務上疾病の中で最も高い割合を占めています。しかし、多くの場合、作業者は痛みを我慢しながら働き続けており、表面化する前に対策を講じることが難しい状況にあります。
プレゼンティーズムという「見えないコスト」
近年、製造業で注目されているのが「プレゼンティーズム(Presenteeism)」の問題です。プレゼンティーズムとは、出勤しているにもかかわらず、身体的・精神的な不調により生産性が低下している状態を指します。
研究によれば、プレゼンティーズムによる生産性損失は、欠勤(アブセンティーズム)による損失の数倍に達するとされています。製造現場においては、以下のような形で影響が現れます。
- 作業速度の低下: 腰痛や足の疲労により、通常より作業テンポが遅くなる
- 不良品率の上昇: 集中力の低下により、検査漏れや組立ミスが増加する
- 安全リスクの増大: 判断力の低下により、ヒヤリハットや労働災害のリスクが高まる
ものづくりワールド2025の注目トレンド
アシストスーツの多様化
ものづくりワールド2025では、アシストスーツの展示が前年より大幅に増加しました。かつては「重量物を持ち上げるためのもの」というイメージが強かったアシストスーツですが、現在は用途や対象部位に応じて細分化が進んでいます。
| カテゴリ | 対象部位 | 主な用途 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 腰部サポート型 | 腰・背中 | 前かがみ作業、持ち上げ | 最も普及。空気圧式・弾性バンド式 |
| 肩部サポート型 | 肩・上腕 | 上方への作業、持ち上げ | 天井付近の作業に有効 |
| 下肢サポート型 | 膝・ふくらはぎ | 長時間立位、しゃがみ作業 | スタンディングレスト型を含む |
| 首部サポート型 | 首・頸椎 | 上向き作業、下向き検査 | 軽量設計で長時間使用可能 |
特に注目されたのは、パッシブ型(外部動力を使わない)アシストスーツの進化です。バネやゴムの弾性力で身体を支えるシンプルな構造のため、充電不要で軽量、メンテナンスコストも低いという利点があります。
作業姿勢の「見える化」技術
IoTセンサーやAIカメラを活用した作業姿勢のモニタリングシステムも、複数のブースで展示されていました。これらの技術は、作業者の姿勢をリアルタイムで計測し、リスクの高い動作パターンを可視化します。
具体的な機能としては、以下のようなものが展示されていました。
- 姿勢リスクスコアのリアルタイム表示: REBA法やOWAS法に基づくリスク評価を自動算出
- アラート機能: 危険な姿勢が一定時間続いた場合にウェアラブルデバイスで通知
- データ分析ダッシュボード: 部署・工程別のリスクデータを管理者が一覧で確認
健康経営と安全衛生の融合
展示会のセミナープログラムでは、「健康経営」と「労働安全衛生」を統合的に推進する企業事例が多く紹介されました。特に、経済産業省の「健康経営優良法人」認定を目指す企業が増加しており、その一環として製造現場の人間工学的改善に取り組むケースが増えています。