要約

改正労働安全衛生法(2024〜2026施行)とは、化学物質の自律的管理、個人事業者・フリーランスの保護拡大、ストレスチェックの全事業場義務化、機械等の安全規制強化、健康確保措置の充実を5つの柱とする大型改正です。2022年の労働安全衛生法・施行令改正を起点として、2024年4月から2028年5月まで段階的に施行されます。事業者は段階施行スケジュールに従って計画的な対応が必要であり、特に中小企業への影響が大きい改正です。

定義

「労働安全衛生法等の一部を改正する法律」および「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令」(令和4年5月公布)等により、化学物質の自律的管理、個人事業者等の保護、ストレスチェック制度の見直し、機械等の安全規制強化、健康確保措置の充実等を内容とする改正が段階的に施行される。

— 出典: 労働安全衛生法等の改正(厚生労働省)

背景・なぜ重要か

労働安全衛生法は1972年の制定以来、累次の改正により拡充されてきました。今回の改正は近年で最大規模の改正の一つで、複数の重要な政策課題に対応するものです。

改正の背景:

  • 2012年 胆管がん事案:1,2-ジクロロプロパン等による印刷工場での集団発症
  • 2018-2019年 膀胱がん事案:オルト-トルイジンによる集団発症
  • これらにより特別規則対象外の物質による健康障害リスクが顕在化
  • 個人事業者・フリーランスの増加:労安法の保護対象から外れる労働者の増加
  • 精神障害労災請求の高水準推移:メンタルヘルス対策の強化必要性
  • 国際的な労働衛生水準:ISO 45001等の国際基準への対応

改正の議論経緯:

  • 2019年〜:「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」開催
  • 2020年:報告書公表(自律的管理への転換を提言)
  • 2022年5月:労働安全衛生規則改正(公布)
  • 2024年4月:化学物質管理者選任義務化、濃度基準値制度の本格運用開始
  • 2025年5月:熱中症対策の義務化開始
  • 2026年4月:ストレスチェック対象拡大、リスクアセスメント対象物質の大幅拡大予定
  • 2028年5月:完全施行(一部の高度な対応)

関連する法令・規格・制度

  • 労働安全衛生法:本法(昭和47年法律第57号)
  • 労働安全衛生法施行令
  • 労働安全衛生規則
  • 特定化学物質障害予防規則(並行存続)
  • 有機溶剤中毒予防規則(並行存続)
  • 粉じん障害防止規則(並行存続)
  • フリーランス保護新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)
  • 過労死等防止対策推進法

改正の5つの柱

柱1:化学物質管理の自律化

  • 化学物質管理者(労安規第12条の5):2024年4月選任義務化
  • 保護具着用管理責任者(労安規第12条の6):2024年4月選任義務化
  • 濃度基準値(労安規第577条の2):2024年4月本格運用
  • リスクアセスメント対象物質の拡大:2026年4月までに約2,900物質
  • 個人ばく露測定の活用:段階的拡大

柱2:個人事業者・フリーランスの保護

  • 特定受託事業者の特別加入:2024年11月から労災保険拡大
  • 発注者の保護義務:労安法の保護対象拡大
  • 災害報告:個人事業者の災害報告ルール整備

柱3:ストレスチェック制度の拡大

  • 50人未満事業場への拡大:2026年予定で全事業場義務化

柱4:機械等の安全規制強化

  • 機械等のリスクアセスメント:強化
  • 特定機械の安全規制:見直し
  • クレーン・エレベーター等:検査制度の見直し

柱5:健康確保措置の充実

  • 長時間労働者への面接指導:見直し
  • 熱中症対策:2025年6月義務化
  • 休憩設備:努力義務化
  • 作業環境測定法の見直し:2026年改正予定

実務でのポイント

  1. 施行スケジュールの把握 厚労省の段階施行スケジュールを継続的にチェックし、自社の対応計画に反映します。

  2. 化学物質管理体制の整備 化学物質管理者・保護具着用管理責任者の選任、リスクアセスメントの実施、ばく露測定の準備を進めます。

  3. ストレスチェック対応 50人未満事業場でも実施体制(実施者・委託先・面接指導医)を準備します。

  4. 熱中症対策の義務化対応 2025年6月から既に義務化されています。WBGT測定、作業計画、健康管理等の体制を整備します。

  5. フリーランス取引の見直し 個人事業者・フリーランスとの取引における安全衛生配慮を見直します。

  6. 就業規則・社内規程の改訂 改正内容を反映するため、就業規則・安全衛生規程を改訂します。

  7. 教育の実施 従業員(特に管理職・安全衛生スタッフ)への改正内容の教育を実施します。

  8. 公的支援の活用 厚労省・中災防・地域産業保健センター等の支援制度を活用します。

  9. 記録・証拠の整備 各種措置の実施記録・文書を整備します。安全配慮義務の観点でも重要です。

よくある誤解・落とし穴

  • 誤解1: 「2026年まで対応を待てばよい」 — 多くの規定は既に施行済みです。早急な対応が必要です。
  • 誤解2: 「中小企業は対象外」 — むしろ中小企業への影響が大きい改正です。すべての事業者が対象です。
  • 誤解3: 「化学物質を扱わないから関係ない」 — ストレスチェック、熱中症、機械等の安全など多分野にわたる改正です。
  • 誤解4: 「特化則・有機則が廃止される」 — 廃止されません。自律管理と特別規則は併存します。
  • 誤解5: 「フリーランスは独立した事業主だから保護不要」 — 改正により取引上の保護義務が拡大されました。

参考文献

  1. 厚生労働省「労働安全衛生法等の改正
  2. 厚生労働省「化学物質による労働災害防止のための新たな規制(化学物質規制の見直し)
  3. 厚生労働省「ケミサポ:職場の化学物質管理総合サイト
  4. 厚生労働省「職場における熱中症予防対策
  5. 厚生労働省「ストレスチェック制度

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