要約
リスクアセスメントとは、職場における危険性・有害性を特定し、それによるリスクの大きさを見積もり、許容できないリスクに対して低減措置を検討・実施する一連の手法です。労働安全衛生法第28条の2に基づき、製造業・建設業等の特定業種では努力義務として位置付けられ、化学物質に関しては義務化されています。厚労省指針が示す5ステップアプローチが標準的な実施プロセスです。
定義
「事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等を調査し、その結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。」
— 出典: 労働安全衛生法 第28条の2第1項(e-Gov)
厚生労働省は本制度の目的を以下のように説明しています:
「リスクアセスメントは、職場の潜在的な危険性又は有害性を見つけ出し、これを除去・低減するため手法です。労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)の中核となる手法であり、自主的な安全衛生活動の基本です。」
背景・なぜ重要か
リスクアセスメントの考え方は欧州を中心に1970年代から発展し、日本では2006年の労働安全衛生法改正で第28条の2が新設され、努力義務として導入されました。導入の背景には:
- 事後対応から事前予防への転換:労働災害を起きてから対処するのではなく、リスクを事前に評価して未然防止する方針への転換
- OSHMS(労働安全衛生マネジメントシステム)の中核:ISO 45001、JIS Q 45100の中心要素
- 化学物質管理の自律化:2022年改正で化学物質のRAは義務化、2024年からは保護具着用管理責任者の選任義務化
特に化学物質のリスクアセスメント(労安法第57条の3)は、SDS交付対象物質を扱うすべての事業者に義務付けられており、2026年に向けて自律的管理体制の確立が進んでいます。
関連する法令・規格・制度
- 労働安全衛生法 第28条の2:努力義務としての一般リスクアセスメント
- 労働安全衛生法 第57条の3:化学物質のリスクアセスメント(義務)
- 危険性又は有害性等の調査等に関する指針(平成18年厚生労働省指針公示第1号)
- ISO 45001:労働安全衛生マネジメントシステム国際規格
- JIS Q 45100:労働安全衛生マネジメントシステム-要求事項及び利用の手引
- ISO 12100:機械類の安全性-設計のための一般原則-リスクアセスメント及びリスク低減
- 化学物質のリスクアセスメントのためのスクリーニング支援ツール(クリエイト・シンプル等)
実施の5ステップ
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ステップ1:危険性・有害性の特定 作業や設備を分解し、機械的危険・電気的危険・化学的危険・人間工学的危険・心理社会的危険等を網羅的に洗い出します。
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ステップ2:リスクの見積もり 特定された危険性・有害性ごとに、災害発生の頻度と重篤度を評価し、リスクの大きさを見積もります。マトリクス法・数値化法・枝分かれ法などの手法があります。
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ステップ3:リスク低減措置の検討 見積もったリスクに対して優先順位を付け、低減措置を検討します。措置の優先順位は本質安全化→工学的対策→管理的対策→個人用保護具の順です。
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ステップ4:低減措置の実施 検討した措置を実施し、再度リスクを評価して許容範囲内に収まっているか確認します。
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ステップ5:記録と継続的改善 実施結果を記録し、定期的に見直します。新しい設備の導入、作業内容の変更、関連する事故・ヒヤリハット発生時に再評価します。
実務でのポイント
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対象作業を選定する 全作業を一度に評価するのは現実的でないため、リスクの高そうな作業から優先的に着手します。新規作業や災害事例のある作業は優先度が高くなります。
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チーム編成 現場作業者、安全衛生担当者、管理監督者、必要に応じて専門家を含むチームで実施します。現場の知見を反映することが重要です。
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見える化と共有 評価結果と低減措置を文書化し、現場へフィードバックします。「危険マップ」等の視覚化が効果的です。
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継続的なPDCA 一度実施して終わりではなく、定期見直し・新規導入時の再評価・事故時の再評価を組み込みます。
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化学物質RAの体制整備 2024年改正により化学物質管理者・保護具着用管理責任者の選任が義務化されています。CREATE-SIMPLE等の支援ツールを活用します。
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OSHMS との統合 ISO 45001/JIS Q 45100 認証を取得している事業場では、認証要件と整合させて実施します。
よくある誤解・落とし穴
- 誤解1: 「努力義務だから実施しなくてよい」 — 化学物質RAは義務であり、また安全配慮義務の観点からも実質的に必須です。
- 誤解2: 「専門家がいないと実施できない」 — 厚労省・中災防のテンプレートと支援ツールで自社実施が可能です。
- 誤解3: 「一度実施すれば完了」 — 新規設備導入・作業変更時、定期見直し時に繰り返し実施するPDCAサイクルが本質です。
- 誤解4: 「個人用保護具で対策は十分」 — PPEは最後の手段であり、本質安全化・工学的対策が常に優先されます。
- 誤解5: 「リスクアセスメントは形式的な書類作成」 — 実効性のない書類作成は本来の目的と乖離しています。現場の参加と継続的改善が不可欠です。
参考文献
- e-Gov 法令検索「労働安全衛生法 第28条の2」
- 厚生労働省「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」
- 厚生労働省「職場のあんぜんサイト:リスクアセスメント」
- 中央労働災害防止協会「リスクアセスメント実施支援」
- 厚生労働省「化学物質のリスクアセスメント」