毎日の仕事が終わってから翌日の出勤までの間に、あなたは十分な休息をとれていますか。労働安全衛生総合研究所の久保氏による研究報告は、勤務間インターバルが 9 時間未満に縮むと平均睡眠時間が約 5 時間まで短縮され、疲労が蓄積しやすくなることを明らかにしています。

本記事では、第134回労働政策フォーラムで発表された「働く人々の疲労回復におけるオフの量と質の確保の重要性」の知見をもとに、勤務間インターバル制度と「つながらない権利」が疲労回復に果たす役割を解説します。

この記事でわかること

  • 過労死が国際的な課題となっている背景
  • 勤務間インターバル制度の仕組みと科学的効果
  • 「つながらない権利」が疲労回復に与える影響
  • 日本における制度の現状と今後の方向性

過労死:国際的に認知された労働問題

「Karoshi」は世界共通語

「過労死(Karoshi)」は2002年にオックスフォード英語辞典に登録され、国際的に認知される労働問題となりました。これは日本特有の問題ではなく、世界的な課題です。

WHO(世界保健機関)とILO(国際労働機関)の共同調査(2021年)によると、2016年時点で世界の全人口の約9%が週55時間以上の長時間労働に従事しており、長時間労働に起因する虚血性心疾患と脳卒中による死亡者は推計74万5,000人に上るとされています。

長時間労働と健康リスクの関係

長時間労働が健康に与える影響は、以下のメカニズムで説明されます。

  • 睡眠時間の短縮:労働時間が増えると、睡眠に充てられる時間が物理的に減少する
  • 交感神経の持続的優位:十分な休息がないまま次の勤務に入ることで、自律神経のバランスが崩れる
  • ストレスホルモンの蓄積:コルチゾールなどのストレスホルモンの回復が不十分になる
  • 生活習慣の乱れ:食事の質の低下、運動不足、飲酒量の増加

勤務間インターバル制度とは

制度の概要

勤務間インターバル制度は、1日の勤務終了後から翌日の勤務開始までに一定の連続休息時間を確保する制度です。EU(欧州連合)では、EU労働時間指令(2003/88/EC)により、最低11時間の連続休息期間が法的に義務づけられています。

なぜ「11時間」なのか

労働安全衛生総合研究所のIT労働者を対象とした調査では、勤務間インターバルと睡眠時間の関係が明確に示されています。

勤務間インターバル平均睡眠時間疲労蓄積リスク
11時間以上6.5〜7時間低い
9〜11時間5.5〜6時間中程度
9時間未満5時間未満高い

11時間のインターバルは、通勤時間・食事・入浴・家事などの生活時間を差し引いても6〜7時間の睡眠を確保するために必要な最低限の時間と位置づけられています。

日本での導入状況

日本では2019年4月の働き方改革関連法により、勤務間インターバル制度の導入が事業者の努力義務として規定されました(労働時間等設定改善法)。しかし、厚生労働省の調査によると、制度を導入している企業はまだ一部にとどまっています。

「つながらない権利」の重要性

ICTの進化がもたらした新たな問題

インターネットやスマートフォンの普及により、労働者は勤務時間外でもメールやチャットで業務連絡を受けることが可能になりました。この「常時接続(always-on)」状態は、物理的には退社していても精神的には仕事から離れられない状態を生み出しています。

つながらない権利(Right to Disconnect)とは

「つながらない権利」とは、勤務時間外に業務関連の連絡から切り離される権利です。フランスでは2017年に法制化され、従業員50人以上の企業に対して、勤務時間外のデジタル通信に関する社内規定の策定を義務づけています。

オフの「質」が疲労回復を左右する

久保氏の研究では、休息時間の「量」だけでなく「質」が疲労回復に重要であることが強調されています。

オフの量:十分な勤務間インターバルの確保(物理的な休息時間) オフの質:心理的な仕事からの切り離し(精神的な休息)

勤務時間外に業務メールをチェックするだけでも、脳は「仕事モード」から完全に切り替わることができず、心理的回復(psychological detachment)が阻害されます。

研究によると、心理的に仕事から離れることができた休息は、そうでない場合と比べて以下の効果がありました。

  • 翌日の疲労感が有意に低い
  • 睡眠の質(深い睡眠の割合)が向上
  • 翌日の集中力とパフォーマンスが改善

疲労回復のための実践的アプローチ

個人ができること

  1. 退社後のメール確認を制限する:特に就寝前2時間はデジタルデバイスから離れる
  2. 睡眠環境を整える:寝室の温度、暗さ、騒音レベルを最適化する
  3. 入眠前のルーティンを作る:ストレッチ、読書、入浴など、仕事モードからの切り替えを助ける習慣
  4. 休日の過ごし方を工夫する:積極的休息(軽い運動、趣味活動)が受動的休息(ゴロゴロする)よりも回復効果が高い

企業・組織ができること

  1. 勤務間インターバル制度の導入:最低11時間を目標とした休息時間の確保
  2. 勤務時間外のメール送信制限:夜間・休日のメール送信を制限するシステムの導入
  3. 管理職の意識改革:「夜遅くまで働くことは美徳ではない」という文化の醸成
  4. 勤務時間の可視化:PCログオン・ログオフ時間の自動記録と分析
  5. 産業保健スタッフとの連携:疲労蓄積度チェックリストを活用した定期的なスクリーニング

立ち仕事における特別な配慮

立ち仕事に従事する労働者は、座り仕事の労働者よりも身体的疲労が大きいため、勤務間インターバルの重要性はさらに高まります

  • 立ち仕事後の足のむくみや筋疲労の回復には最低8時間の安静が必要
  • 入浴やストレッチなどの積極的回復を行う時間を確保するためにも11時間以上のインターバルが望ましい
  • シフト制の職場では、夜勤→早朝勤務の間隔に特に注意が必要

まとめ

疲労回復には「オフの量」(十分な勤務間インターバル)「オフの質」(心理的な仕事からの切り離し)の両方が不可欠です。EU基準の11時間以上の勤務間インターバルは、6〜7時間の睡眠を確保し疲労蓄積を防ぐために必要な最低限の休息時間です。

ICTの進化により「つながらない権利」の重要性も増しています。個人の意識改革と企業の制度設計の両面から、真の休息を確保する取り組みが求められます。

参考文献

  1. 久保智英(労働安全衛生総合研究所), 「働く人々の疲労回復におけるオフの量と質の確保の重要性 ─勤務間インターバルと『つながらない権利』」, 第134回労働政策フォーラム「ICT の発展と労働時間政策の課題」, 労働政策研究・研修機構(JILPT)主催, 2024年8月30日〜9月5日. https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20240905/index.html
  2. Pega, F., Náfrádi, B., Momen, N.C., Ujita, Y., Streicher, K.N., Prüss-Üstün, A.M., et al., "Global, regional, and national burdens of ischemic heart disease and stroke attributable to exposure to long working hours for 194 countries, 2000–2016: A systematic analysis from the WHO/ILO Joint Estimates of the Work-related Burden of Disease and Injury," Environment International, 154, 106595, 2021. DOI: 10.1016/j.envint.2021.106595. PMID: 34011457.
  3. European Council, Directive 2003/88/EC of the European Parliament and of the Council concerning certain aspects of the organisation of working time, 4 November 2003. https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=celex%3A32003L0088
  4. 厚生労働省, 「勤務間インターバル制度について」(働き方改革関連法, 2019年4月施行). https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html
  5. Sonnentag, S. & Fritz, C., "Recovery from job stress: The stressor-detachment model as an integrative framework," Journal of Organizational Behavior, 36(S1), S72-S103, 2015. DOI: 10.1002/job.1924.