職場での熱中症による労働災害が深刻化するなか、2025年6月1日に労働安全衛生規則が改正され、企業に対してより厳格な熱中症対策が義務付けられました。従来の「努力義務」から「法的義務」への格上げにより、違反した場合には罰則の対象となる可能性があります。
本記事では、2025年の法改正の全体像と企業が取り組むべき義務の内容、具体的な実務対応のポイントを解説します(2026年4月時点の情報に基づく)。
この記事でわかること
- 熱中症対策が法的義務となった背景と経緯
- 改正労働安全衛生規則の対象条件
- 企業に課される3つの主要な義務
- 違反した場合の罰則とリスク
- 実務対応のチェックポイント
法改正の概要
制定の背景と目的
厚生労働省の統計によると、職場での熱中症による死傷者数は増加傾向にあり、2024年には過去最多の1,257人に達しました。死亡者数も31人と深刻な状況です。
これまで厚労省は、「職場における熱中症予防対策マニュアル」や年度ごとの通達により、WBGT値の測定や休憩の確保、水分・塩分補給の推奨といった指針を示してきました。しかし、これらは「努力義務」の枠組みであり、法的拘束力が弱いため、対策の実施率には事業場間で大きな差がありました。
こうした状況を受けて、2025年6月1日に労働安全衛生規則が改正され、特定の条件下での熱中症対策が法的義務として明文化されました。
対象となる作業条件
改正規則の対象となるのは、以下のいずれかに該当する作業環境です。
- WBGT値(暑さ指数)28℃以上
- 気温31℃以上
上記の条件に該当する屋内・屋外の作業場所で労働者を従事させる場合、事業者は所定の措置を講じなければなりません。
企業に課される3つの主要な義務
義務1: 暑熱環境の測定と管理
事業者は、対象となる作業環境においてWBGT値または気温を定期的に測定し、管理する義務を負います。
具体的に求められること:
- WBGT測定器(JIS B 7922適合品が推奨)の設置
- 作業場所における定期的な測定と記録
- 測定結果の作業者への周知(掲示等)
- WBGT値に基づく作業時間・休憩の管理
義務2: 熱中症予防措置の実施
WBGT値28℃以上(または気温31℃以上)の環境で作業させる場合、以下の措置を実施しなければなりません。
必須の措置:
- 休憩場所の確保: 冷房設備または通風が確保された休憩場所を作業場所の近くに設置
- 水分・塩分の提供: 十分な量の飲料水と塩分補給のための飲料・食品を備え付け
- 作業時間の管理: 連続作業時間の制限と適切な休憩の確保
- 服装への配慮: 通気性の良い作業服、クールベスト等の冷却装備の提供
義務3: 体制整備と教育
組織的な熱中症予防体制の構築と教育が求められます。
具体的に求められること:
- 熱中症予防管理者の選任: 暑熱環境下の作業を管理する担当者の指名
- 作業者への教育: 熱中症の症状・応急処置・予防策に関する安全衛生教育の実施
- 緊急時の対応手順: 熱中症が疑われる場合の応急処置手順と搬送体制の整備
- 暑熱順化の実施: 新規配属者や休暇明けの作業者に対する段階的な順化措置
違反した場合のリスク
罰則規定
改正規則に基づく義務に違反した場合、労働安全衛生法第119条により以下の罰則が科される可能性があります。
- 6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金
行政処分
- 労働基準監督署による是正勧告
- 改善が見られない場合の使用停止命令
- 悪質な場合の送検
民事上のリスク
熱中症による労災が発生した場合、安全配慮義務違反として民事上の損害賠償責任を問われるケースが増えています。裁判例では、WBGT値の測定を怠っていたこと自体が過失と認定された事例も報告されています。
事業者の対応チェックリスト
以下の項目について、自社の対応状況を確認してください。
- WBGT測定器を作業場所に設置しているか
- 測定結果を定期的に記録・保存しているか
- WBGT値に応じた段階的対応ルールを策定しているか
- 冷房付きの休憩場所を確保しているか
- 十分な飲料水と塩分補給の手段を提供しているか
- 熱中症予防管理者を選任しているか
- 作業者への安全衛生教育を実施しているか
- 緊急時の対応手順を策定・周知しているか
- 暑熱順化プログラムを導入しているか
関連する法令・制度
- 労働安全衛生法: 事業者の安全配慮義務を定める根拠法
- 労働安全衛生規則: 2025年6月改正により熱中症対策を義務化
- 職場における熱中症予防基本対策要綱: 厚労省が定める詳細な予防対策の指針
- STOP!熱中症 クールワークキャンペーン: 厚労省が毎年実施する啓発活動
まとめ
2025年6月施行の労働安全衛生規則改正により、WBGT値28℃以上(または気温31℃以上)の環境での熱中症対策が法的義務となりました。企業には、暑熱環境の測定・管理、予防措置の実施、体制整備・教育の3つの義務が課されています。違反した場合の罰則や民事リスクを考慮し、早期に対応体制を整備することが求められます。
よくある質問
Q: すべての事業場が対象ですか?
A: WBGT値28℃以上または気温31℃以上の環境で労働者を従事させる事業場が対象です。オフィスワーク中心で空調が完備されている事業場は、通常、対象外となります。
Q: WBGT測定器の設置は義務ですか?
A: WBGT値による管理を行う場合は測定器の設置が実質的に必要です。気温31℃以上を基準とする場合は通常の温度計でも対応可能ですが、厚労省はWBGT値による管理を推奨しています。
Q: いつまでに対応すればよいですか?
A: 規則は2025年6月1日から施行済みです。未対応の事業場は速やかに体制整備に着手してください。
参考文献
- 厚生労働省「労働安全衛生規則の一部を改正する省令」(令和7年厚生労働省令第57号, 2025年4月15日公布, 2025年6月1日施行). 解説: https://jsite.mhlw.go.jp/kagoshima-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/anzen_eisei/nettyusyou/2025-0418-7.html
- 厚生労働省「職場における熱中症予防基本対策要綱」(令和3年4月20日基発0420第3号, 2021年改正). https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18668.html
- 厚生労働省「令和6年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」(2025年5月30日公表). https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_58389.html
- 厚生労働省「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000116133.html