2025年6月の労働安全衛生規則改正により、WBGT値(暑さ指数)に基づく熱中症対策が法的義務となりました。しかし、「WBGT値をどう測定すればよいのか」「どこに測定器を設置すべきか」といった実務的な疑問を抱える担当者も多いのではないでしょうか。
本記事では、WBGT値の測定方法について、測定機器の選び方から設置基準、データの記録・活用法まで、現場担当者が実践できるレベルで体系的に解説します。
この記事でわかること
- WBGT値の測定が必要とされる法的根拠
- WBGT測定機器の種類と選定基準
- 測定ポイントの設置場所と高さの基準
- 測定頻度・記録方法のポイント
- 測定データの活用方法
WBGT値の測定とは
WBGT値の測定とは、湿球温度・黒球温度・乾球温度の3つの温度要素を専用機器で計測し、所定の計算式で暑熱環境のリスクレベルを数値化することです。
2025年6月施行の改正労働安全衛生規則では、WBGT値28℃以上(または気温31℃以上)の作業環境において、熱中症対策が義務化されました。この基準に該当するかどうかを判定するために、正確なWBGT値の測定が不可欠です。
測定前に確認すべき基本事項
測定目的の明確化
WBGT値の測定を始める前に、目的を明確にしておくことが重要です。
- 日常的なモニタリング: 作業中のリアルタイムな環境管理のため
- 法令対応・監査対応: 改正労働安全衛生規則への適合を証明するため
- 労災発生後の検証: 熱中症が発生した際の環境条件の記録として
それぞれの目的に応じて、求められる測定精度や記録の粒度が異なります。
測定環境の特性把握
測定を行う前に、以下の環境条件を把握しておきましょう。
- 屋内か屋外か(直射日光の有無)
- 空調設備の有無と稼働状況
- 発熱源(炉、ボイラー、機械等)の位置
- 風通し、換気の状況
- 作業時間帯と作業内容
WBGT測定機器の種類と選び方
電子式WBGT計(暑さ指数計)
現在最も広く使用されているのが、電子式のWBGT計です。湿球温度・黒球温度・乾球温度を自動計測し、WBGT値をデジタル表示します。
選定のポイント:
- JIS B 7922適合品を選ぶ: 測定精度が規格で保証されている
- クラス分類を確認: JIS B 7922ではクラス1(高精度)とクラス2(一般用)が規定されている。法令対応や記録保存にはクラス1が推奨される
- データロガー機能の有無: 連続記録が必要な場合は、データロガー機能付きの機種が便利
- 表示の見やすさ: 屋外での使用を考慮し、大型ディスプレイや高輝度表示のものが実用的
黒球付き熱中症指数モニター
比較的安価で入手しやすい簡易型のモニターです。小型の黒球センサーを内蔵し、WBGT値の目安を表示します。日常的なモニタリングに適していますが、JIS規格の精度要件を満たさない製品もあるため、法令対応の記録用途には注意が必要です。
環境省の推計値の活用
環境省の「熱中症予防情報サイト」では、全国約840地点のWBGT予測値と実況値が公表されています。作業場所近くの観測地点のデータを参考値として活用できますが、屋内作業場や特殊な環境では実測値との乖離が大きくなるため、あくまで補助的な情報として利用しましょう。
測定ポイントの設置基準
設置場所の選定
WBGT測定器の設置場所は、作業者が実際に暑熱ストレスを受ける場所を代表する地点に設定します。ISO 7243およびJIS Z 8504では、以下の原則が示されています。
- 作業者の近傍: 作業者が実際に作業を行う位置のできるだけ近くに設置する
- 複数地点の測定: 作業場所内で温度環境が均一でない場合は、最も暑い場所を含む複数地点で測定する
- 発熱源の影響を考慮: 炉や機械の近傍では、作業者の位置での測定値を確認する
測定高さの基準
JIS Z 8504では、立位作業と座位作業で測定高さの基準が異なります。
- 立位作業: 頭部(170cm)、腹部(110cm)、足首(10cm)の3点の平均値を使用するのが理想。簡易的には腹部の高さ(110cm)で代表値とする
- 座位作業: 頭部(110cm)、腹部(60cm)、足首(10cm)の3点
一般的な現場管理では、作業者の腹部の高さ(立位110cm、座位60cm)での1点測定で対応するケースが多いです。
屋外作業場での注意点
屋外では直射日光の影響を受けるため、測定器を日陰に置いてしまうと正確なWBGT値が得られません。屋外用の測定には、直射日光下で正しく機能するよう設計された機器を使用する必要があります。
測定頻度と記録方法
推奨される測定頻度
厚生労働省のガイドラインおよび改正規則に基づく推奨頻度は以下のとおりです。
- 連続モニタリング: データロガー機能付き機器で常時記録するのが理想
- 定時測定: 最低でも1時間ごと、高リスク時間帯(10〜15時)はより頻繁に
- 気象条件の急変時: 気温や湿度の急上昇時には臨時測定を実施
記録すべき項目
測定結果の記録には、以下の項目を含めることが推奨されます。
- 測定日時
- 測定場所
- WBGT値(℃)
- 気温・湿度・黒球温度(個別値)
- 天候・風速(屋外の場合)
- 作業内容・作業者数
- 実施した対策(休憩・水分補給等)
データの保存期間
改正労働安全衛生規則では測定記録の保存期間は明示されていませんが、労災対応や法令監査を考慮して、少なくとも3年間は保存しておくことが推奨されます。
測定データの活用方法
測定したWBGT値は、以下のような形で活用できます。
1. 作業管理の判断基準
WBGT値に基づいて、作業の継続・休憩・中止を判断する段階的な対応基準を設定します。厚生労働省のガイドラインでは、作業強度(代謝率)に応じた基準値が示されています。
2. 環境改善の効果検証
送風機の設置、遮熱シートの導入など、暑熱環境改善策の導入前後でWBGT値を比較することで、対策の効果を客観的に検証できます。
3. 年度間の比較・トレンド分析
毎年のWBGT値の推移を記録・比較することで、暑熱環境の変化傾向や対策の改善状況を把握できます。
まとめ
WBGT値の正確な測定は、法令遵守と熱中症予防の両面で不可欠な取り組みです。JIS B 7922に適合した測定機器を適切な場所・高さに設置し、定期的に測定・記録することが基本となります。測定データは作業管理の判断基準、環境改善の効果検証、年度間の比較など、多様な活用が可能です。まずは自社の作業環境に適した測定体制を構築するところから始めましょう。
よくある質問
Q: WBGT測定器はどこで購入できますか?
A: 計測器メーカー(京都電子工業、日本気象協会認定品など)から購入できます。価格帯は簡易型で5,000〜20,000円程度、JIS適合のクラス1機器で50,000〜200,000円程度です。法令対応にはJIS B 7922適合品を選びましょう。
Q: 環境省の推計値だけで法令対応は可能ですか?
A: 環境省の推計値は屋外の代表地点のデータであり、工場内や倉庫内など特殊な環境の実態を反映しません。法令対応には、実際の作業場所での実測値が求められます。推計値はあくまで補助情報として活用してください。
Q: 測定頻度はどのくらい必要ですか?
A: 最低でも1時間に1回の測定が推奨されます。高リスク時間帯(10〜15時)はより頻繁な測定が望ましいです。データロガー機能付きの機器で連続モニタリングするのが理想的です。
Q: WBGT値の測定は誰が行うべきですか?
A: 特別な資格は必要ありませんが、測定器の正しい使用方法とWBGT値の意味を理解している担当者が行うべきです。衛生管理者や安全衛生推進者が担当するのが一般的です。
参考文献
- 厚生労働省「職場における熱中症予防基本対策要綱」(2021年). https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei33/
- JIS B 7922:2017「電子式湿球黒球温度(WBGT)指数計」(2023年改訂版あり). JSA Webdesk: https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=JIS+B+7922:2023
- JIS Z 8504:2021「熱環境の人間工学 — WBGT指数を用いた熱ストレス評価」. JSA Webdesk: https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/?bunsyo_id=JIS+Z+8504:2021
- ISO 7243:2017「Ergonomics of the thermal environment — Assessment of heat stress using the WBGT index」. https://www.iso.org/standard/67188.html
- 環境省「熱中症予防情報サイト — 暑さ指数の測定と利用」. https://www.wbgt.env.go.jp/