2024年、職場における熱中症による死傷災害の発生件数が過去最多の1,257人に達しました。前年(2023年)の1,106人から13.6%の増加です。厚生労働省が公表した「令和6年(2024年)職場における熱中症による死傷災害の発生状況」から、データの詳細と企業が取るべき対策を読み解きます。
この記事でわかること
- 2024年の熱中症死傷者数の推移と過去10年間のトレンド
- 業種別・月別の発生状況
- 死亡事例に見られる共通パターン
- データから導き出される今後の対策の方向性
熱中症死傷災害の推移
過去最多の1,257人
2024年に発生した職場での熱中症による死傷者数は1,257人で、これは2015年の472人と比較して約2.7倍にあたります。過去10年間で熱中症災害が急速に深刻化していることを示すデータです。
さらに注目すべきは死亡者数です。2024年には31人が職場で命を落としており、前年の22人から大幅に増加しました。厚生労働省はこれを「過去最多水準」と位置づけ、警戒を呼びかけています。
増加は単なる猛暑のせいではない
この増加傾向は、単なる気温上昇だけでは説明できません。WBGT値が「注意喚起レベル」を超える日数は年によってばらつきがある一方で、死傷者数は右肩上がりを続けています。背景には以下の構造的な要因が考えられます。
- 高齢労働者の増加: 熱中症リスクが高い65歳以上の就業者が増加
- 対策の不徹底: 中小企業を中心に、WBGT測定や体制整備が追いついていない
- 暑熱環境の変化: 都市部のヒートアイランド現象や高温多湿日の増加
業種別の発生状況
製造業・建設業に集中する被害
2024年の死傷者1,257人のうち、製造業は235人(死亡5人)、建設業は228人(死亡10人)と、この2業種だけで全体の約37%を占めています。
| 業種 | 死傷者数 | 死亡者数 |
|---|---|---|
| 製造業 | 235人 | 5人 |
| 建設業 | 228人 | 10人 |
| 運輸交通業 | 約130人 | 3人 |
| 警備業 | 約90人 | 4人 |
| 商業 | 約80人 | 2人 |
| その他 | 約494人 | 7人 |
建設業は死傷者数では製造業に次いで2位ですが、死亡者数では最多の10人を記録しており、屋外の直射日光下での重労働が重症化リスクを高めていると考えられます。
月別の発生状況
熱中症災害の発生は7月と8月に集中しており、この2ヶ月で年間発生件数の約7割を占めます。ただし、5月や9月にも死亡事例が報告されており、「真夏だけの問題」ではないことに注意が必要です。特に梅雨明け直後は、暑熱順化が不十分な状態で急な高温に曝されるため、リスクが急上昇します。
死亡事例の分析:何が起きていたのか
厚生労働省が公表した死亡事例の分析からは、いくつかの共通パターンが浮かび上がります。
パターン1: WBGT値の未測定
死亡事例の多くで、作業場所のWBGT値が測定されていませんでした。気温を目安にしていたものの、湿度や輻射熱の影響を見落としていたケースです。
パターン2: 暑熱順化の不足
梅雨明け直後や長期休暇明けなど、暑さに体が慣れていない時期に発症したケースが目立ちます。段階的な暑熱順化が実施されていれば、防げた可能性のある事例が含まれています。
パターン3: 体調不良の申告遅れ
発症者が体調の変化を感じていたにもかかわらず、作業を続行していたケースが報告されています。特に一人作業の場合、周囲が異変に気づくのが遅れ、重症化するリスクが高まります。
パターン4: 応急処置の遅れ
症状が出てから適切な応急処置(体の冷却、水分補給、救急搬送)が行われるまでに時間がかかり、重症化したケースもあります。
データから導く今後の対策
1. WBGT測定の徹底
2025年6月の法改正によりWBGT値28℃以上での対策が義務化されましたが、死亡事例の分析は、この義務化がいかに重要であるかを物語っています。
2. 暑熱順化プログラムの制度化
梅雨明け直後の被害集中は、暑熱順化の不足が主因です。5〜7日間の段階的な暑熱順化プログラムを制度として導入することが推奨されます。
3. バディ制と見守り体制
一人作業時の死亡リスクを低減するため、バディ制の導入や管理者による定期巡回が有効です。
4. 緊急時の対応手順の整備
症状発生から応急処置までの時間を短縮するため、対応手順の明文化と訓練の実施が求められます。
まとめ
2024年の熱中症死傷者数1,257人という数字は、職場の暑熱対策が依然として不十分であることを示しています。この増加傾向は気温上昇だけでなく、高齢労働者の増加や対策の不徹底といった構造的な要因にも起因しています。2025年の法改正を契機に、WBGT測定の徹底、暑熱順化プログラムの導入、見守り体制の整備など、エビデンスに基づく対策を着実に進めていくことが求められます。
よくある質問
Q: 2024年のデータは確定値ですか?
A: 厚生労働省が公表した令和6年の確定値に基づいています。速報値から若干の修正がある場合がありますが、傾向に大きな変化はありません。
Q: 死傷者数には軽症者も含まれますか?
A: 労災として認定された4日以上の休業を要する事例が集計対象です。軽症(4日未満の休業)や未報告の事例を含めれば、実際の被害はさらに多いと推定されます。
参考文献
- 厚生労働省「令和6年(2024年)職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」, 2025年5月30日. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_58389.html /別添1(発生状況・死亡事例分析): https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001496330.pdf
- 厚生労働省「職場における熱中症予防基本対策要綱」(基発0420第3号、令和3年4月20日). https://www.jaish.gr.jp/horei/hor1-62/hor1-62-22-1-2.html