警備員は、施設やインフラの安全を守る重要な役割を担う一方で、長時間の立哨(立ちっぱなしの監視業務)や巡回、不規則なシフト勤務により、腰痛リスクが非常に高い職種です。中央労働災害防止協会の「警備業における労働災害防止ガイドライン」によれば、警備業界の労働災害は年間1,200〜1,300件に上り、その多くに腰部への負担が関与しています。

海外の調査では、警備員の約48〜66%が腰痛を経験しているという報告もあります。本記事では、警備員の腰痛の実態とガイドラインに基づく予防策を解説します。

この記事でわかること

  • 警備員に腰痛が多い構造的要因
  • 国内外の調査が示す腰痛有病率
  • 安全衛生ガイドラインが推奨する予防策
  • 現場で実践できる低コストの対策

警備員の腰痛の実態

国内の労災データ

警備業における労働災害防止ガイドライン(平成25年)によれば、災害の約3割が「転倒」、約12%が「動作の反動・無理な動作」に起因しています。これらは腰や膝など身体の要となる部位に直接的な影響を与えるリスク要因です。

年齢別では60歳以上が全体の約30%、50歳以上まで含めると過半数を占めており、高齢化が進む警備業界ではMSDリスクが構造的に高い状況にあります。

海外の調査データ

調査地域腰痛有病率主なリスク要因
パキスタン(2017年)48%長時間の立ち姿勢
インド(2021年)66.2%1日8時間以上の立ち業務

いずれの調査でも、長時間の立位姿勢が腰痛の最大のリスク要因として特定されています。

警備業務特有のリスク要因

  • 立哨業務:同じ場所で数時間にわたり直立姿勢を維持
  • 巡回業務:不規則な歩行と階段昇降の繰り返し
  • 機材の設置・撤去:コーンやバリケードの持ち運び
  • 交通誘導:屋外での長時間の立位と上肢の反復動作
  • 不規則なシフト:夜勤による睡眠の質低下と回復不全

ガイドラインが推奨する予防策

姿勢負荷の軽減

  • 交代制勤務の導入:長時間の立哨を避け、合間に他の業務や休憩を挟むスケジュール設計
  • 携帯椅子の活用:山形県酒田市の事例では、警備員が持ち運び可能な簡易椅子を使用し、腰痛の緩和効果が報告されている
  • 適切な靴の選定:クッション性と安定性を兼ね備えた靴の着用

教育と啓発

  • 新任教育への腰痛予防の組み込み:正しい立ち姿勢、持ち上げ動作の基本を教育
  • 日常的なストレッチの習慣化:勤務前後・休憩時に腰部と下肢のストレッチを実施
  • 腰痛の初期兆候の認識:違和感の段階で申告する意識づけ

作業環境の整備

  • 立哨位置への疲労軽減マットの設置
  • 巡回ルートの段差・障害物の低減
  • 夜勤時の適切な照明確保(転倒リスクの低減)

健康管理

  • 定期健康診断での腰痛チェック項目の充実
  • 高齢警備員への個別の健康指導
  • 腰痛が悪化した場合の業務調整(巡回から受付業務への一時配置転換等)

高齢化する警備業界への提言

警備業界では作業者の高齢化が急速に進んでおり、腰痛対策はまさに業界の持続可能性に直結する課題です。2026年の安衛法改正で高年齢労働者の労災防止が努力義務化されたことを踏まえ、以下の取り組みが望まれます。

  • エイジフレンドリー補助金を活用した職場環境改善
  • 体力測定に基づく個人の能力に応じた業務配分
  • 立ち作業の負荷を軽減するサポートデバイスの導入検討

まとめ

警備員の腰痛は、長時間の立哨、巡回業務、高齢化という構造的な要因により高リスクな状態にあります。ガイドラインが推奨する交代制勤務、携帯椅子の活用、適切な靴選び、ストレッチの習慣化は、低コストで実践可能な対策です。高齢化が進む警備業界において、腰痛対策は人材の確保と定着に直結する経営課題として取り組むべきです。

参考文献

  1. 中央労働災害防止協会(JISHA), 「警備業における労働災害防止のためのガイドライン」(2013年2月全面改訂). https://www.jisha.or.jp/research/report/201303_02.html /鹿児島労働局掲載 PDF: https://jsite.mhlw.go.jp/kagoshima-roudoukyoku/var/rev0/0109/0223/2013-0524-2.pdf
  2. Mane SS, Patil PB, Shende P, "Prevalence of Low Back Pain in Security Guards in MGM Institute of Health Sciences, Aurangabad," International Journal of Health Sciences and Research, 10(9), 255-259, 2020. https://www.ijhsr.org/IJHSR_Vol.10_Issue.9_Sep2020/46.pdf
  3. 厚生労働省, 「エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)」, 2020年3月. https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000815416.pdf