製造現場でのねじ締め作業は、製品の品質と安全性を左右する重要な工程です。しかし、作業台の高さが適切でない場合、作業者の肩・腰・腕に過大な負荷がかかり、筋骨格系障害(MSD: Musculoskeletal Disorders)のリスクが高まることが指摘されています。

特に頭上でのねじ締め作業は、肩への負担が著しく大きく、現場作業者の間でも「最もつらい作業」として認識されています。では、作業台の高さによってどの程度身体負荷が変わるのでしょうか。

この記事では、ねじ締め作業における身体負荷を科学的手法で検証した研究を紹介し、作業台の最適な高さ設計について解説します。

この記事でわかること

  • ねじ締め作業の身体負荷に関する最新の研究知見
  • 作業台の高さが肩・腰・腕の筋活動量に与える影響
  • 頭上作業がなぜ特に身体に負担が大きいのか
  • 最適な作業台高さの設計指針

研究の背景

なぜこの研究が行われたか

製造業において、ねじ締め作業は組立工程の基本動作のひとつです。自動車、電子機器、家電、建設資材など、あらゆる製品の組立にねじ締めが含まれます。

しかし、ねじ締め作業の身体負荷は作業条件によって大きく異なります。作業台の高さ、つまりねじを締める位置が作業者の体のどの高さにあるかによって、必要な姿勢と筋活動のパターンが変化します。

従来、作業台の高さは「肘の高さ」を基準にすることが一般的に推奨されてきましたが、ねじ締めのような力を要する動作では、この基準が必ずしも最適とは限りません。特に、製品の構造上、頭上や膝下の位置でのねじ締めが避けられないケースでは、どの程度の身体負荷が生じるのかを定量的に把握する必要がありました。

研究の概要

研究の目的

この研究は、ねじ締め作業における作業台の高さ(作業高さ)の違いが、筋活動量(筋電図: EMG)と主観的負担感に与える影響を定量的に評価することを目的として実施されました。

対象と方法

研究では、製造業経験のある成人男女を対象に、異なる作業高さでのねじ締め作業を行い、以下の指標で身体負荷を評価しました。

  • 筋電図(EMG): 三角筋(肩)、僧帽筋(肩〜背中)、上腕二頭筋(腕)、脊柱起立筋(腰)の筋活動量を計測
  • 主観的評価: ボルグスケール(自覚的運動強度)による疲労・不快感の評価
  • 作業高さの条件: 膝高、腰高、肘高、肩高、頭上高の5水準

主な研究結果

頭上作業の負荷は圧倒的に大きい

研究結果から、頭上でのねじ締め作業は他の作業高さと比較して、全ての計測筋において有意に高い筋活動量を示しました。

作業高さ三角筋(肩)僧帽筋(肩〜背中)脊柱起立筋(腰)
膝高
腰高低〜中
肘高
肩高低〜中
頭上高非常に高中〜高

特に三角筋(肩の筋肉)の筋活動量は、肘高での作業と比較して頭上作業では2〜3倍に達しており、この結果は主観的評価ともよく一致しました。

最も負荷が低い作業高さ

肘高での作業が、全ての筋群において最も筋活動量が低く、主観的不快感も最小でした。この結果は、従来の人間工学的推奨と一致しています。

一方、膝高での作業では、脊柱起立筋(腰の筋肉)の活動量が増加しました。これは、低い位置に手を伸ばすために前傾姿勢が深くなることが原因です。

主観評価と客観データの一致

ボルグスケールによる主観的評価は、EMGデータとよく相関していました。つまり、作業者が「つらい」と感じる姿勢は、実際に筋肉への負荷が大きいことが客観的に確認されました。このことは、作業者の「つらさ」の訴えが身体負荷の客観的な指標となりうることを示唆しています。

この研究からわかること・実務への示唆

作業台の高さ設計指針

この研究結果は、製造現場での作業台設計に以下の指針を提供します。

  1. 基本は肘高: ねじ締め作業台の標準的な高さは作業者の肘の高さを基準とする
  2. 頭上作業の最小化: 製品設計や工程設計の段階で、頭上でのねじ締めを可能な限り排除する
  3. 高さ調整機構の導入: 異なる体格の作業者に対応するため、高さ調整可能な作業台を推奨
  4. やむを得ない頭上作業への対策: 作業時間の制限、ローテーション、マイクロレストの確保

現場への適用

  • 製品設計へのフィードバック: ねじの位置を人間工学的に最適化する「デザイン・フォー・エルゴノミクス」の考え方
  • 工程設計の見直し: 製品の向きや固定方法を変えることで、頭上作業を胸〜肘高での作業に変換
  • 作業者の声の活用: 主観的評価が客観データと一致するため、作業者の「つらさ」の訴えを作業改善の出発点とする

研究の限界と今後の展望

この研究にはいくつかの限界点があります。実験室環境での測定であるため、実際の製造現場での環境要因(温度、振動、工具の重さなど)は考慮されていません。ま��、長時間作業での累積疲労の影響や、性別・年齢による差異についてはさらなる研究が必要です。

今後は、ウェアラブルセンサーを用いた実際の製造現場でのリアルタイムモニタリングや、AIによる作業姿勢の自動評価といった技術の発展が期待されています。

まとめ

ねじ締め作業における身体負荷は、作業台の高さによって大きく変化します。頭上作業は肩・背中への負荷が極めて高く、肘高での作業が最も負荷が低いことが筋電図データと主観評価の両面から確認されました。作業台の高さ設計を肘高基準とし、頭上作業を最小化することが、製造現場における MSD予防の基本となります。

参考文献

  1. 厚生労働省, 「職場における腰痛予防対策指針」, 2013年改訂. https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000034et4-att/2r98520000034pjn_1.pdf
  2. Pheasant S, Haslegrave CM, "Bodyspace: Anthropometry, Ergonomics and the Design of Work," CRC Press, 3rd edition, 2005. ISBN: 978-0415285209
  3. Grandjean E, "Fitting the Task to the Man: A Textbook of Occupational Ergonomics," Taylor & Francis, 4th edition, 1988. ISBN: 978-0850663792
  4. Delleman NJ, Haslegrave CM, Chaffin DB, "Working Postures and Movements: Tools for Evaluation and Engineering," CRC Press, 2004. ISBN: 978-0415279086