要約
労働施策総合推進法は、雇用の安定と職業生活の充実を目的とする労働施策の総合的な推進を定める法律です。1966年制定の「雇用対策法」を前身とし、2018年改正で現在の名称となりました。2019年改正によりパワーハラスメント防止のための措置義務(第30条の2)が新設され、通称「パワハラ防止法」と呼ばれるようになりました。2024年改正では2026年からカスタマーハラスメント防止措置義務も新設される予定です。
定義
「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」 (通称:労働施策総合推進法/パワハラ防止法)
「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」
背景・なぜ重要か
旧「雇用対策法」は1966年に制定され、雇用政策の基本法として長く機能してきました。働き方改革の文脈で2018年に「労働施策総合推進法」へと名称変更され、より広い労働政策の推進を担う法律となりました。
そして2019年改正でパワーハラスメント防止措置義務(第30条の2)が新設されたことが、本法を一躍社会的に注目される存在にしました。
法改正の経緯:
- 1966年:雇用対策法 制定
- 2018年:労働施策総合推進法へ名称変更(働き方改革関連法)
- 2019年:パワハラ防止措置義務(第30条の2)新設
- 2020年6月1日:大企業に対するパワハラ防止措置義務 施行
- 2022年4月1日:中小企業に対するパワハラ防止措置義務 施行
- 2024年:カスタマーハラスメント防止措置義務 新設(2026年施行予定)
これにより、男女雇用機会均等法(セクハラ)、育児・介護休業法(マタハラ・育介ハラ)と並び、職場ハラスメント防止の主要3法の一つとなっています。
関連する法令・規格・制度
- 労働施策総合推進法 第30条の2:パワハラ防止措置義務(中核条文)
- 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号):通称「パワハラ指針」
- 男女雇用機会均等法 第11条:セクハラ防止措置義務
- 育児・介護休業法 第25条:マタハラ・育介ハラ防止措置義務
- 労働契約法 第5条:安全配慮義務
- 心理的負荷による精神障害の認定基準:労災認定基準
事業主の措置義務(4つの柱)
厚労省指針はパワハラ防止措置を以下の4つの柱で整理しています:
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事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
- 方針の明文化(就業規則・社内通達)
- 行為者への厳正な対処の方針・内容の規定化
- 全従業員への周知・啓発(研修・パンフレット)
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相談(苦情を含む)に応じ適切に対応するために必要な体制の整備
- 相談窓口の設置(社内・社外)
- 担当者の選任と研修
- 相談しやすい体制の整備
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職場におけるパワハラへの事後の迅速かつ適切な対応
- 事実関係の迅速かつ正確な確認
- 被害者への配慮措置
- 行為者への適正措置
- 再発防止策の実施
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併せて講ずべき措置
- プライバシー保護
- 相談・告発を理由とする不利益取扱いの禁止
- これらの措置の社内周知
実務でのポイント
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就業規則への明記 ハラスメント禁止規定と懲戒事由としての位置付けを就業規則に必ず明記します。
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相談窓口の二重化 社内窓口と社外窓口(弁護士・カウンセラー等)の両方を設けることで、被害者がアクセスしやすい体制を作ります。
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管理職研修の継続実施 管理職向けには年1回以上の研修を実施し、パワハラの3要件と6類型を理解させます。
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相談記録の管理 相談・対応の経過を記録し、プライバシーを保護したうえで将来の対策と再発防止に活用します。
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2026年カスハラ対応の準備 カスハラ防止措置義務化に向けて、現時点から方針策定・対応マニュアル整備を始めることが推奨されます。
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3つのハラスメント法を統合的に運用 パワハラ・セクハラ・マタハラの各防止措置を統合的に運用することで、効率的・効果的な対策が可能になります。
よくある誤解・落とし穴
- 誤解1: 「中小企業は義務化されていない」 — 2022年4月から中小企業もパワハラ防止措置義務の対象です。
- 誤解2: 「罰則がないから対応しなくてよい」 — 直接の罰則はありませんが、企業名公表や民事責任のリスクがあります。
- 誤解3: 「就業規則を変えれば対応完了」 — 規則整備は出発点に過ぎません。研修・相談体制・事後対応まで含めて措置義務です。
- 誤解4: 「カスハラは2026年から準備すればよい」 — 措置義務化に向けた整備には時間がかかるため、現時点から準備を始めるべきです。
- 誤解5: 「労働施策総合推進法はパワハラだけの法律」 — 実際は雇用対策・職業訓練・若者雇用等を含む広範な労働政策の根拠法です。
参考文献
- e-Gov 法令検索「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」
- 厚生労働省「職場におけるハラスメント対策」
- 厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年告示第5号)
- 厚生労働省「あかるい職場応援団:ハラスメント対策総合情報サイト」
- 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」