要約

パワーハラスメント(パワハラ)とは、職場の優越的な関係を背景として、業務上必要かつ相当な範囲を超える言動により、労働者の就業環境を害する行為です。労働施策総合推進法(パワハラ防止法)第30条の2に定義され、すべての事業主に防止措置義務が課されています。3つの要件すべてを満たす行為がパワハラに該当し、6つの代表的な類型に整理されています。

定義

「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」

— 出典: 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律 第30条の2第1項(e-Gov)

厚生労働省指針では、これを「3要件」として整理しています:

  1. 優越的な関係を背景とした言動
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えるもの
  3. 労働者の就業環境が害されるもの

背景・なぜ重要か

職場におけるパワハラは長年深刻な問題でしたが、法的に防止措置義務が課されたのは2019年の労働施策総合推進法改正からです。2020年6月に大企業、2022年4月に中小企業を含むすべての事業主に防止措置が義務化されました。

厚生労働省「過労死等の労災補償状況」によると、精神障害の労災請求件数のうち**「上司からのパワーハラスメント」が原因と認定されるケースは年々増加**しており、職場メンタルヘルスにおける最重要課題の一つです。

加えて、2023年9月の労災認定基準改正では心理的負荷評価表のハラスメント関連項目が見直され、ハラスメントの認定がより明確化されました。事業者にとっては、防止措置を講じないこと自体が安全配慮義務違反として民事責任を問われるリスクを抱える状況となっています。

関連する法令・規格・制度

  • 労働施策総合推進法 第30条の2(パワハラ防止法):事業主のパワハラ防止措置義務
  • 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号):通称「パワハラ指針」
  • 労働契約法 第5条:安全配慮義務
  • 男女雇用機会均等法 第11条:セクハラ防止措置義務
  • 育児・介護休業法:マタハラ・育介ハラ防止措置義務
  • 心理的負荷による精神障害の認定基準:労災認定基準

パワハラの6類型

厚労省指針では代表的な行為を6類型に整理しています:

  1. 身体的な攻撃:殴打、足蹴り、物を投げつける等
  2. 精神的な攻撃:人格否定、必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の前での威圧的な叱責等
  3. 人間関係からの切り離し:意図的な無視、別室隔離、長期間の自宅研修等
  4. 過大な要求:業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制
  5. 過小な要求:能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えない
  6. 個の侵害:私的なことに過度に立ち入る、性的指向・性自認や病歴等の機微な情報を本人の同意なく他に暴露する

実務でのポイント

  1. 3要件と6類型の周知 全従業員への研修を通じて、パワハラの定義と類型を理解させます。「これは指導か、パワハラか」の判断軸を示すことが重要です。

  2. トップメッセージの発信 経営トップによるパワハラ撲滅宣言を明文化し、社内外に発信します。これは厚労省指針が求める方針の明確化の中核です。

  3. 就業規則への明記 ハラスメント禁止規定と懲戒事由としての位置付けを就業規則に明記します。

  4. 相談窓口の設置と運用 社内・社外の相談窓口を設置し、プライバシーを守れる体制を整えます。窓口担当者の研修も必須です。

  5. 迅速かつ適切な事後対応 相談があった場合は事実関係を迅速に確認し、被害者保護・行為者措置・再発防止策を実施します。

  6. 不利益取扱いの禁止 相談・告発したことを理由とする不利益取扱いは法律で禁止されています。

よくある誤解・落とし穴

  • 誤解1: 「厳しい指導は全てパワハラ」 — 業務上必要かつ相当な範囲の指導はパワハラに該当しません。問題は内容と方法の相当性です。
  • 誤解2: 「上司から部下への行為だけ」 — 同僚間や部下から上司への行為も、専門知識・経験の優位性等を背景とすればパワハラに該当し得ます。
  • 誤解3: 「言った側に悪意がなければセーフ」 — 加害者の主観ではなく、客観的に「相当性を超え就業環境を害する」かで判断されます。
  • 誤解4: 「中小企業は対応が遅れても許される」 — 2022年4月から中小企業も法的義務化されており、措置を怠れば指導・公表の対象です。
  • 誤解5: 「業務指導の記録を残せばパワハラと言われない」 — 記録は重要ですが、行為自体が相当性を超えていれば記録の有無に関わらずパワハラです。

参考文献

  1. 厚生労働省「職場におけるハラスメント対策
  2. e-Gov 法令検索「労働施策総合推進法 第30条の2
  3. 厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年告示第5号)
  4. 厚生労働省「あかるい職場応援団:ハラスメント対策総合情報サイト
  5. 厚生労働省「過労死等の労災補償状況」(年次報告)

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