要約
セクシュアルハラスメント(セクハラ)とは、職場における性的な言動により労働者の就業環境が害される行為、または性的な要求への対応により労働条件に不利益を与える行為です。男女雇用機会均等法第11条に基づき、すべての事業主に防止措置義務が課されています。「対価型」「環境型」の2類型に整理されており、男女・性的指向を問わず被害者・加害者となり得ます。
定義
「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」
背景・なぜ重要か
セクハラは1989年の福岡セクハラ訴訟(日本初の判決)を契機に社会問題として認知され、1999年の男女雇用機会均等法改正で事業主の配慮義務が明文化されました。その後、2007年に措置義務化、2014年に同性間セクハラの明示、2017年にLGBTQ+への配慮の明確化、2020年に対象労働者の拡大と段階的に強化されてきました。
セクハラは被害者の心身に深刻な影響を与え、労働意欲の低下、離職、メンタルヘルス不調、最悪の場合は精神障害の労災認定につながります。心理的負荷による精神障害の認定基準でも、セクハラは「中〜強」評価の対象となる重要な業務上の出来事です。
事業者にとっては、防止措置義務違反は行政指導や企業名公表、民事訴訟(安全配慮義務違反)のリスクを生むため、組織的な対策が不可欠です。
関連する法令・規格・制度
- 男女雇用機会均等法 第11条:事業主のセクハラ防止措置義務
- 事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号、令和2年改正):通称「セクハラ指針」
- 労働契約法 第5条:安全配慮義務
- 労働施策総合推進法:パワハラ防止措置義務
- 心理的負荷による精神障害の認定基準:労災認定基準
- 育児・介護休業法:マタハラ・育介ハラ防止措置義務
セクハラの2類型
-
対価型セクハラ 性的な要求を拒否した労働者に対して、解雇、降格、減給、配置転換、契約更新拒否などの不利益を与えるタイプ。例:上司からの食事の誘いを断ったら担当を外された等。
-
環境型セクハラ 性的な言動により職場環境が不快なものとなり、労働者の能力発揮に重大な悪影響が生じるタイプ。例:執拗な性的話題、ヌードカレンダーの掲示、わいせつな冗談、身体への不必要な接触等。
両類型は重複して発生することもあります。また、相手の意に反することと就業環境への悪影響が判断の要となります。
実務でのポイント
-
方針の明確化と周知 セクハラを許さない方針を明文化し、就業規則・社内通達・研修等で周知します。経営トップからのメッセージ発信も有効です。
-
就業規則への明記 セクハラ禁止規定と懲戒事由としての位置付けを就業規則に明記します。
-
相談窓口の設置 社内・社外(弁護士・カウンセラー等)双方の窓口を設置し、被害者がアクセスしやすい体制を整えます。窓口担当者にはプライバシー保護の研修が必須です。
-
迅速かつ適切な事後対応 相談を受けたら、被害者保護を最優先に事実関係を確認し、行為者措置・再発防止策を講じます。
-
プライバシー保護 相談者・被害者・行為者のプライバシーを徹底的に保護します。情報は必要最小限の範囲でのみ共有します。
-
不利益取扱いの禁止 相談・告発したことを理由とする不利益取扱いは法律で禁止されており、就業規則にも明記します。
-
継続的な研修 全従業員(特に管理職)への研修を定期的に実施します。LGBTQ+に関する理解促進も重要なテーマです。
よくある誤解・落とし穴
- 誤解1: 「親しみのつもりだった」は通用する — 加害者の主観ではなく、被害者の受け止めと客観的相当性で判断されます。
- 誤解2: 「男性が被害者になることはない」 — 男女問わず被害者・加害者になり得ます。同性間も対象です。
- 誤解3: 「飲み会の席はプライベートだから対象外」 — 業務の延長線上にある飲み会等は「職場」に含まれます。
- 誤解4: 「指針は大企業だけのもの」 — すべての事業主(中小企業含む)が防止措置義務の対象です。
- 誤解5: 「同意があれば問題ない」 — 上下関係のある職場で本当の意味の同意が成立しているかは慎重な判断が必要です。
参考文献
- 厚生労働省「職場におけるハラスメント対策」
- e-Gov 法令検索「男女雇用機会均等法 第11条」
- 厚生労働省「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年改正)
- 厚生労働省「あかるい職場応援団:ハラスメント対策総合情報サイト」
- 厚生労働省「過労死等の労災補償状況」(年次報告)