「WBGT値が何度になったら作業を中止すべきか?」「作業の種類によって基準は変わるのか?」——これらは、暑熱環境で作業を管理する担当者が直面する具体的な疑問です。WBGT値に基づく作業管理は、2025年6月の労働安全衛生規則改正により法的義務となりましたが、その具体的な運用方法を理解している担当者はまだ多くありません。

本記事では、ISO 7243、ACGIH、厚生労働省のガイドラインに基づくWBGT値の作業管理基準と、現場で実践可能な段階的対応の運用方法を解説します。

この記事でわかること

  • WBGT値に基づく作業管理が法的に求められる背景
  • ISO 7243・ACGIHが定める作業強度別のWBGT基準値
  • 厚労省ガイドラインによる段階的対応の具体策
  • 現場での運用手順とルール策定のポイント

WBGT値に基づく作業管理の概要

なぜWBGT値による管理が必要なのか

現場の「感覚的な」暑さ対策は、湿度・輻射熱・気流を無視しがちで、熱中症のリスク評価として不十分です。ISO 7243や厚生労働省のガイドラインでも、これらを総合したWBGT値が推奨されており、数値に基づく科学的な管理が国内外の標準となっています。

2025年6月施行の改正労働安全衛生規則では、WBGT値28℃以上(または気温31℃以上)の環境において、企業に対策措置が義務付けられました。この基準を運用するうえで、作業の種類(強度)に応じた段階的な管理が重要になります。

対象となる作業環境(2026年4月時点)

改正規則の対象となるのは、以下のいずれかに該当する作業環境です。

  • WBGT値28℃以上
  • 気温31℃以上

これらの条件に該当する場合、事業者は熱中症予防のための措置を講じなければなりません。

ISO 7243・ACGIHが定める作業強度別基準

国際規格ISO 7243およびACGIH(米国産業衛生専門家会議)では、作業強度(代謝率)に応じたWBGT値の限界値を定めています。作業が激しいほど体内での発熱量が増えるため、より低いWBGT値で対策が必要になります。

作業強度の分類

作業強度代謝率の目安作業例
軽作業〜200 kcal/h座位での事務作業、検品、軽い手作業
中等度作業200〜300 kcal/h包装作業、軽い搬送、組立作業
重作業300 kcal/h以上重量物の運搬、掘削、激しい反復動作

WBGT限界値(暑熱順化者 / 非順化者)

作業強度順化者のWBGT限界値非順化者のWBGT限界値
軽作業30℃29℃
中等度作業28℃26℃
重作業26℃23℃

暑熱順化とは、数日間にわたって徐々に暑熱環境に慣れさせるプロセスのことです。順化が完了していない作業者(新規配属、長期休暇明けなど)は、より低いWBGT値で対策が必要となります。

なお、風速が1.5 m/s以上の環境では、気流による冷却効果により、評価基準が2〜3℃程度緩和されるとの報告もあります(CDC/OSHA, 2021)。

厚労省ガイドラインによる段階的対応

厚生労働省の「職場における熱中症予防基本対策要綱」および改正規則に基づく段階的な対応基準は、現場での運用に直結する実務的な指針です。

WBGT値別の対応アクション

注意レベル(WBGT 25〜28℃)

  • 作業場所にWBGT値を掲示し、作業者に周知
  • 水分・塩分補給の声かけを強化
  • 休憩場所の確認と整備

警戒レベル(WBGT 28〜31℃)

  • 作業時間の短縮と休憩頻度の増加
  • 30分ごとの休憩を目安とする
  • 作業者の健康状態の確認(バディ制の導入)
  • クーリングスポット(冷房付き休憩所)の活用

危険レベル(WBGT 31℃以上)

  • 重作業の中止、軽作業への切り替え
  • 連続作業時間の大幅な制限(15〜20分ごとに休憩)
  • 管理者による作業者の定期的な健康確認
  • 状況に応じて作業の全面中止を検討

現場での運用手順

ステップ1: 作業区分の整理

自社の作業を「軽作業」「中等度作業」「重作業」に分類し、それぞれのWBGT基準値を設定します。

ステップ2: 対応ルールの文書化

WBGT値の段階に応じた対応アクション(休憩・作業変更・中止基準)を文書化し、管理者・作業者の双方に周知します。

ステップ3: 測定・記録体制の運用

WBGT測定器を設置し、定期的な測定と記録を実施します。データロガー機能付きの機器で連続モニタリングするのが理想的です。

ステップ4: 暑熱順化プログラムの実施

新規配属者や長期休暇明けの作業者に対して、5〜7日間かけて段階的に作業量を増やす暑熱順化プログラムを実施します。初日は通常の50%程度から開始し、1日20%ずつ作業量を増やしていくのが目安です。

ステップ5: 振り返りと改善

シーズン終了後にWBGT値のデータと対応実績を振り返り、次年度の改善計画を策定します。

違反した場合のリスク

改正労働安全衛生規則に基づく義務に違反した場合、以下のリスクがあります。

  • 行政指導: 労働基準監督署による是正勧告
  • 罰則: 6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金(労働安全衛生法第119条)
  • 労災認定への影響: 熱中症が労災として認定された場合、使用者責任が問われる可能性
  • 民事損害賠償: 安全配慮義務違反として、高額の賠償責任を負うケース

まとめ

WBGT値に基づく作業管理は、作業強度に応じた基準値の設定と段階的な対応ルールの運用が核となります。ISO 7243や厚労省ガイドラインが示す基準を自社の作業環境に当てはめ、文書化・周知・運用・振り返りのサイクルを回していくことが重要です。

よくある質問

Q: 作業強度の分類はどのように判断すればよいですか?

A: ISO 8996(代謝率の推定方法)に基づく分類表を参考にするか、各作業の身体的負荷を「軽い手作業」「全身を使う中程度の作業」「重量物の運搬等の激しい作業」に当てはめて判断します。迷う場合は安全側(より重い作業区分)に分類しましょう。

Q: 暑熱順化にはどのくらいの期間が必要ですか?

A: 一般的に5〜14日間とされています。CDCのガイドラインでは、新規作業者は7日間、復帰者は5日間の順化期間を推奨しています。

Q: WBGT基準値を超えたら必ず作業を中止しなければなりませんか?

A: WBGT基準値を超えた場合でも、直ちに全面中止が必要というわけではありません。作業時間の短縮、休憩の増加、作業強度の低減など、段階的な対応で対処できます。ただし、WBGT値31℃以上の重作業は中止を検討すべきです。

参考文献

  1. 厚生労働省「職場における熱中症予防基本対策要綱」(2021年). https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei33/
  2. ISO 7243:2017「Ergonomics of the thermal environment — Assessment of heat stress using the WBGT index」. https://www.iso.org/standard/67188.html
  3. ACGIH「TLVs and BEIs — Heat Stress and Heat Strain」(2024年版). https://www.acgih.org/heat-stress-and-strain-2/
  4. OSHA「Model Heat Illness Prevention Plan」(2021年). https://www.osha.gov/sites/default/files/2021-07/Model%20Heat%20Illness%20Prevention%20Plan.pdf
  5. ISO 8996:2021「Ergonomics of the thermal environment — Determination of metabolic rate」. https://www.iso.org/standard/74443.html

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