要約

熱中症とは、高温多湿環境下で発生する身体の障害の総称で、めまいから意識障害・死亡まで重症度はさまざまです。職場では建設業・製造業・農林業・運送業など屋外・高温作業を中心に毎年多数の発生があり、死亡災害にも至っています。2025年6月の労働安全衛生規則改正により事業者の熱中症対策が義務化され、WBGT測定、作業計画、健康管理、緊急時対応等が必須となりました。

定義

「熱中症とは、高温多湿な環境において、体内の水分や塩分(ナトリウム等)のバランスが崩れたり、体内の調整機能が破綻するなどして発症する障害の総称である。重症の場合には、命にかかわる可能性もある。」

— 出典: 職場における熱中症予防基本対策要綱(厚生労働省・基発0531第1号)

日本救急医学会では重症度をI度・II度・III度に分類し、それぞれの症状と対応を定めています。

背景・なぜ重要か

日本における職場の熱中症発生件数は気候変動とともに高水準で推移しており、特に近年は猛暑日の増加により業務上熱中症の死亡者数が深刻な問題となっています。

主要な業種別の発生:

  • 建設業:屋外・直射日光下での作業、常時最多の発生件数
  • 製造業:金属溶解・化学プロセス・倉庫内作業
  • 運送業:トラック運転手の積み下ろし作業
  • 農林業:屋外作業
  • 警備業:屋外立ち作業
  • 清掃業:屋外清掃

法整備の経緯:

  • 2009年(平成21年):「職場における熱中症予防対策の徹底について」通達
  • 2017年(平成29年):「職場における熱中症予防基本対策要綱」(基発0531第1号)
  • 2025年(令和7年)6月:労働安全衛生規則改正により熱中症対策が事業者の義務化

2025年改正は職場熱中症対策における大きな転換点で、これまでの通達ベースの対応から法的義務への格上げが行われました。

関連する法令・規格・制度

  • 労働安全衛生法 第22条:事業者の健康障害防止措置義務
  • 労働安全衛生規則:2025年6月改正で熱中症関連条文新設
  • 職場における熱中症予防基本対策要綱(基発0531第1号)
  • 職場における熱中症予防対策マニュアル(厚生労働省)
  • JIS Z 8504:2021:人間工学-WBGT指数に基づく作業者の熱ストレスの評価
  • ISO 7243:Hot environments — Estimation of the heat stress on working man, based on the WBGT-index
  • 環境省 熱中症予防情報サイト:暑さ指数(WBGT)の発信

WBGT指数(暑さ指数)

WBGT(Wet Bulb Globe Temperature)は、気温・湿度・輻射熱・気流を統合した熱ストレス指標で、ISO 7243およびJIS Z 8504で標準化されています。

屋外用:WBGT = 0.7×Tw + 0.2×Tg + 0.1×Td 屋内用:WBGT = 0.7×Tw + 0.3×Tg

(Tw: 自然湿球温度、Tg: 黒球温度、Td: 乾球温度)

厚労省指針では、身体作業強度別にWBGT基準値を設定し、超過時の対策(休憩・水分補給・服装等)を示しています。

実務でのポイント

  1. WBGT値の測定と記録 2025年改正により、暑熱な環境下での作業ではWBGT測定が事業者の義務となりました。継続的な測定と記録を行います。

  2. 作業計画の作成 暑さ指数に応じた作業時間・休憩時間・水分補給スケジュールを計画します。特に午後早い時間帯は高リスクです。

  3. 環境改善 遮熱、送風、冷房、休憩所の確保、簡易休憩テントの設置等を行います。

  4. 水分・塩分補給 30分ごとに水分と塩分を補給します。経口補水液(ORS)の常備も推奨されます。

  5. 健康管理 高血圧、糖尿病、心疾患等の既往歴の把握、当日の体調確認(朝礼での声かけ)、暑熱順化(暑さに慣れる期間)の確保。

  6. 服装の工夫 通気性のよい服、遮熱機能のあるヘルメット・作業着、ファン付き作業服等の活用。

  7. 教育 熱中症の症状・予防・応急処置を全員に教育します。特に新規従事者、若年者、高齢者には丁寧な指導が必要です。

  8. 緊急時対応 症状発見時の連絡体制、冷却処置、救急搬送ルートを事前に整備し、訓練しておきます。

よくある誤解・落とし穴

  • 誤解1: 「水分さえ飲めば大丈夫」 — 塩分(ナトリウム)の補給も必須です。水だけでは低ナトリウム血症のリスクがあります。
  • 誤解2: 「暑さに慣れているベテランは大丈夫」 — 暑熱順化は2週間程度で消失します。長期休暇明けは特に注意が必要です。
  • 誤解3: 「気温が高くなければ熱中症は起きない」 — 湿度が高ければ気温が低くても発症します。WBGT値で判断します。
  • 誤解4: 「室内作業は安全」 — 屋内でも空調がなければ熱中症は発生します。倉庫・厨房・工場は要注意です。
  • 誤解5: 「2025年改正前なので対応は任意」 — 既に改正法が施行されており、義務化されています。早急な対応が必要です。

参考文献

  1. 厚生労働省「職場における熱中症予防対策
  2. 厚生労働省「職場における熱中症予防基本対策要綱
  3. 環境省「熱中症予防情報サイト
  4. 日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン
  5. JIS Z 8504:2021「人間工学-WBGT指数に基づく作業者の熱ストレスの評価」

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