要約

化学物質管理者とは、2024年4月から労働安全衛生規則第12条の5により選任が義務化された、事業場における化学物質管理の責任者です。化学物質の自律的管理制度の中核を担い、ラベル表示・SDS確認、リスクアセスメントの実施管理、ばく露防止措置の管理、教育などを行います。リスクアセスメント対象物質を製造する事業場では、所定の講習修了が必要です。

定義

「事業者は、リスクアセスメント対象物(製造し、又は取り扱う事業場の労働者がリスクアセスメント対象物にばく露するおそれのあるものに限る。次項及び第三項において同じ。)を製造し、又は取り扱う事業場ごとに、化学物質管理者を選任し、その者に当該事業場における化学物質の管理に係る次に掲げる事項(中略)を管理させなければならない。」

— 出典: 労働安全衛生規則 第12条の5第1項(e-Gov)

背景・なぜ重要か

化学物質管理者制度は、化学物質の自律的管理への転換を実現するために2022年労働安全衛生規則改正で新設されました。

導入の背景:

  • 個別物質規制の限界:特化則・有機則等で規制される物質は約120物質に過ぎず、世の中で使われる数万種類の化学物質をカバーできない
  • 重大事案の発生:胆管がん事案(2012年)、膀胱がん事案(2018-2019年)など、特別規則対象外の物質による集団発症
  • 事業場における体系的管理の必要性:化学物質管理を統括する責任者の明確化

化学物質管理者は、**事業場における化学物質管理の「司令塔」**として位置付けられています。リスクアセスメントの推進、SDS情報の活用、ばく露防止措置の実施、教育の実施などを統括します。

関連する法令・規格・制度

  • 労働安全衛生規則 第12条の5:化学物質管理者の選任義務
  • 労働安全衛生規則 第12条の6:保護具着用管理責任者の選任義務
  • 労働安全衛生法 第57条の3:化学物質のリスクアセスメント
  • 労働安全衛生規則 第577条の2:濃度基準値の遵守義務
  • 化学物質管理者講習:厚生労働大臣告示で要件指定
  • 特定化学物質障害予防規則(特化則):並行存続
  • 有機溶剤中毒予防規則(有機則):並行存続

化学物質管理者の職務(労働安全衛生規則第12条の5第3項)

  1. ラベル表示及びSDS等による情報伝達に関すること
  2. リスクアセスメント実施に関すること
  3. リスクアセスメントの結果に基づく措置の内容及びその実施に関すること
  4. 化学物質の自律的な管理に係る各種記録の作成及び保存に関すること
  5. 化学物質の自律的な管理に係る労働者への周知、教育に関すること
  6. ラベル表示及びSDS等による情報伝達に関する教育
  7. その他、リスクアセスメント対象物の適切な管理に必要な事項

選任要件

事業の種類により以下の要件があります:

リスクアセスメント対象物質を製造する事業場

  • 化学物質管理者講習(学科5時間+実技1時間以上)の修了者
  • または同等以上の能力を有する者(労働衛生コンサルタント、衛生管理者の経験者で要件を満たす者等)

その他の事業場(リスクアセスメント対象物を取り扱うのみの場合)

  • 化学物質管理に必要な能力を有する者
  • 必要な能力を担保するための講習等の受講が推奨される

実務でのポイント

  1. 早期の選任と研修受講 2024年4月の義務化以降、未選任の事業場は速やかに対応する必要があります。製造事業場は講習受講の準備を計画的に進めます。

  2. 職務範囲の明確化 化学物質管理者の職務範囲、権限、組織内の位置付けを文書化し、社内に周知します。

  3. 保護具着用管理責任者との役割分担 両者の職務範囲と連携方法を明確にします。

  4. リスクアセスメントの推進 SDSと作業実態に基づいて化学物質RAを実施し、結果を記録します。CREATE-SIMPLE等の支援ツールを活用します。

  5. 教育の実施 化学物質を取り扱う労働者への教育を計画的に実施します。

  6. 記録の保存 リスクアセスメント結果、ばく露評価結果、措置内容等を3年間(がん原性物質は30年間)保存します。

  7. 継続的な能力向上 化学物質管理は法改正や科学的知見の更新が頻繁にあるため、継続的な学習が必要です。

  8. 外部専門家の活用 複雑なケースでは労働衛生コンサルタント、産業医等の助言を活用します。

よくある誤解・落とし穴

  • 誤解1: 「化学物質管理者は専門職でないとなれない」 — 必要な能力を有していれば、従業員から選任可能です。ただし製造事業場では講習受講が必要です。
  • 誤解2: 「兼任できないので人員確保が難しい」 — 他業務との兼任は可能です。専任を求める規定はありません。
  • 誤解3: 「中小企業は選任義務がない」 — 事業規模に関係なく、対象物質を取り扱う事業場すべてが対象です。
  • 誤解4: 「化学物質管理者が責任を全部負う」 — 事業者が最終責任者です。化学物質管理者は技術的事項を管理する役割です。
  • 誤解5: 「特化則・有機則対応で十分」 — 自律的管理対象物質は特別規則対象物質より広く、別途管理が必要です。

参考文献

  1. e-Gov 法令検索「労働安全衛生規則 第12条の5
  2. 厚生労働省「化学物質管理者制度
  3. 厚生労働省「ケミサポ:化学物質管理者
  4. 厚生労働省「化学物質管理者講習に関する告示」
  5. 中央労働災害防止協会「化学物質管理者講習」

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